今日のアカイロマンションはどうかな?
結局、春奈とは何の進展もないまま午後8時前になってしまった。
良は、手土産を持つと、エレベーターに乗り1階で下りた。
駐輪場へはエレベーターの脇の階段を下りた鉄扉から出れる。
良は扉を開けて中に入った。
「こんにちは、元気でした?」
いきなり元気に声を掛けられた。
ブルーシートを敷いた上にあぐらをかいていて手を振る人物は、良が良く知っている人物だった。
「姫路さん」
「お久しぶりです。引っ越しは無事に済んだみたいですね」
良にこの赤石マンションを紹介してくれたのが、仲介業者の担当者である姫路良春だった。
良が無理な条件を引っ提げて不動産屋を訪れては断られを繰り返してた頃、最後に辿り着いたのが、姫路が勤めるグッドライフという駅前の小さな店舗だった。
「この度はどうもお世話にになりました」
駐輪場には彼以外の姿はまだない。歓迎会用らしき紙コップや紙皿やらが入った袋が彼の傍らに置いてある。
「いえいえ、こちらこそ」
姫路はアイドル風のかわいらしい顔をしている。
春奈の様子を伺うと、特に見とれている様子はない。春奈は過去に理想の男性を聞かれて、総合格闘家の名前を挙げたので、アイドル顔に興味はないようだ。
「随分無理を言っちゃいましたけど・・・」
「なかなかいませんよ!席につくなり『いわくつきでも何でもいいんで、とにかく安い物件をお願いします』なんて叫ぶお客さんは。
相変わらず貧乏なんですか?お金ないからって言って、もやしばっかり食べちゃダメですよ。
ほら、あのティッシュ鍋。ティッシュを水炊きにしてポン酢で食べるあれ、あれは止めといたほうがいいですよ」
良は、姫路が仕事熱心で裏表がない性格に付随して、天然で、空気が読めず、地雷を踏みまくるというスキルを持っていることを思い出した。
良は話を打ち切ろうと思い、話題を振った。
「今日はわざわざ僕の歓迎会に来てくれたんですか?お休みのところ、すみません」
グッドライフで見る姫路はいつも背広姿だったが、今日は、長袖Tシャツにワイドパンツ、ブルーシート脇に置いてある靴もスポーツ系で、ラフな格好だった。
「僕もここの住人ですからね。
101号室。マンション入ってすぐ右手の部屋が僕の部屋です」
「は?」
「僕、自信満々にこのマンションを勧めたでしょ。だって自分が住んでいるから、住み心地については誰よりもわかってますもん」
「それならそうと先に言ってくれれば良かったじゃないですか」
「フツー、仲介業者の担当者と一緒のマンションと聞いたら嫌がりません?」
良は、これ以上追及することに気が引けた。姫路は、良よりも年下で、専門学校を出てすぐに就職した新入社員だった。職務を全うしようとしている新人をわざわざいじめることもないだろう。
「これからよろしくお願いしますね」と良が握手を求めると、姫路は良の手をとり、アイドル笑いをした。
- A:感謝の気持ちを込めて彼の手を握った
- →「仲介業者さんのお墨付きなら安心じゃない」と春奈が言った。
- B:そのまま彼の手をねじり上げて威嚇した
- → 「いてて、何するんですか、良さん」
- 姫路は良の手を握り返すと、いきなり良をブルーシートの上に引き倒し、そのまま肘を立てて良の手を倒そうとする。
- 「腕相撲しようっていうんですね、よーし」
- 言うが早いか、姫路はあっさりと良の手首を返し、手の甲が地面についた。
- 「やった!僕の勝ちです!」
- 「・・・力、強いんですね」
- 「僕、中学まで剣道部だったんで」
「良さん、こちらは彼女さんですか?」
「友達です」と良が何か言う前に、ぴしゃりと春奈が答えた。
「引っ越しの手伝いを頼まれたんで。部外者が歓迎会に来ちゃ迷惑ですよね?」
「いえいえ全然!このマンションの住人はちょっと変わっている人もいますけど、みんな気さくでいい人たちですよ。絶対歓迎してくれると思います。
みなさんちょっとルーズなのが玉にキズですけど。もう8時過ぎましたね」
「誰も来ない」と良が言うと、駐輪場へと続くドアが開いた。
「ご苦労さまです」と良は反射的に頭を下げた。
入って来たのは、ブルーグレーの作業着に身を包んだ20代ぐらいの男性だった。
彼は「こんにちわ」と言いながら、右手に持っていたバケツの中からハケを取り出し、地面に青い絵の具を塗りたくり始めた。
「アートですよ!」と男が満面の笑みを浮かべながら言い、また絵の具を勢いよく塗って行った。
青い飛沫が春奈を襲い、頬から胸の下あたりに水玉模様ができる。
かっとなった良は「やめろよ」と言って、バケツをひったくると投げた。
バケツは誰かの自転車の上に真っ逆さまに落下し、自転車は見事青色に染まった。
「あーあ」と呆れたように春奈が声を出すが、怒っている様子はない。
男は、良を称えるようにぱちぱちと拍手した。
「すばらしい。あなたの気持ち、よく伝わりました。
僕は202号室の神谷健三郎です。よろしく」
(ソバを要求する女、着物姿で徘徊する作家、自分の住処が気に入ったからと言って客も入居させる仲介業者、この絵の具男・・・このマンションには変人しかいないのか?)
- A:実際に頭を抱えた
- →そのまま某名探偵のようにぐしゃぐしゃと頭をかきまわす。
- 「頭、すごいことになってるわよ」
- 春奈がそう言って笑いだすと、姫路と神谷も笑った。
- 春奈がバッグから手鏡を取り出して良に差し出すと、良の頭が青く染まっていた・・・
- B:頭を抱える代わりに膝を抱えた
- → 「そのポーズ、いいですね~」と神谷が何か言ってるが、良は無視した。
- 「このポーズには青色が似合いそうですね」と神谷が言ってるが、良は無視した。
- 背中に手をやると、絵の具がべったりとついた。いつの間にか良のTシャツの背中側は、神谷のアートに彩られていた。
- 「サインも入れときました」と神谷は無邪気に笑いながら言った。
- C:どうせ抱えるなら、と春奈を抱えた
- →「何するのよ!」と春奈が叫ぶ。
- 春奈の怒りの表情を見て、良はすぐに春奈を下した。
- 「なんでいきなり抱き上げたりするの?」
- 「頭を抱えたい気分だったから、春奈でも抱えてみようと思って」
- 「へぇ、今度は頭を押さえてみる?」
- 良が頭を押さえてうずくまる。
- 「そのまま土下座」
- 春奈の冷たい声に、良は全身全霊を込めて謝った。
「こんばんは」
またドアが開いた。
良や春奈より若い女の子だった。高校生だろうか。
「君もここの住人なの?」と良が尋ねると、こくりと頷いた。
「203号室の矢島菜穂子と申します。よろしくお願いします」と言って、ぺこりと頭を下げた。
「矢島さんは高校生?」
「いえ、フリーターです。近所の喫茶店でアルバイトをしています」
「今、いくつなの?」
「17です。
高校は中退しました。両親が事故でなくなったもので。バイトをしている喫茶店というのが、叔父の家で。叔父の好意でここを借りてもらってるんですよ」
聞いてはいけないことを聞いてしまった良は、話題を明るくしようと努力してみる。
「その歳で一人暮らしなんて偉いね。実にしっかりしているよ」
「私、叔母さんに迷惑がられているから叔父さんの家に同居できないだけで、進んで一人暮らししたかったわけじゃないですし」
重い言い返しで逆効果になってしまった・・・
菜穂子もブルーシートの上に座り、みんなとわいわい話をしている。
神谷など「矢島さん、すぐ不幸話しすぎです」と言いながら、菜穂子の肩を叩いている。みんな慣れているのだろうか。
「良さん、ビール買ってきてくれたんですか?」と良の側に置いてあるビールケースに気づいた菜穂子が言った。
「みんな飲むかなと思って」
「会議が長くなるとぬるくなっちゃうし、冷やしたほうがいいですね。私、バケツと氷持ってきます」
立ち上がった菜穂子は身長150センチくらいの小柄だった。そんな彼女がバケツに氷を入れて持ってくる姿を想像した良は、どう考えても重いだろう、と思った。
- A:「手伝うよ」と言って立ち上がった→菜穂子の部屋へ
- B:「誰か一緒に行ってあげないんですか?」と男2人を責めた→菜穂子の部屋へ
- C:春奈に誤解されるのが嫌で、黙って彼女を見送った→山瀬に質問
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