「そう、知らないの。
だったら、なんで興味がないなんて答えたのかしら。
問いただしたいところだけど、今回は特別に許してあげる」
鳴神学園には、夕暮れごろ校門の周辺にどこからともなく現れる、一人のおばあさんの噂があった。
そのおばあさんは、おとぎ話に出てくる悪い魔女がそのまま本から抜け出したような恰好をしている。
真っ赤なローブを頭からすっぽりかぶって、その隙間から鷲鼻と少し歯の抜けた三日月みたいな大きな口だけが見え隠れしている。
そして、片手には大きなバスケットを持っていて、中には飴玉がいっぱい入っていて、それを学生たちに配っている。だから、飴玉ばあさんと呼ばれている。
「飴玉ばあさんの話、もっと聞きたいかしら?」
「あの・・・僕、昨日その人に会ったと思います」
「それは面白い偶然ね」
「昨日、そのお婆さんに会って、飴玉ももらいました」
そう言って坂上はポケットをまさぐり、紙に包まれたままの飴を取り出した。包み紙はいかにも素人が包装したらしく皺だらけで所々汚れており、とても食べる気が起きない。
「これは飴玉ばあさんの飴ね。
それで、どうして食べなかったの?」
「あの、なんていうか、その時お婆さんから変な話を聞いたので、食べるのを躊躇してしまって・・・」
「面白そうね、良ければその話、聞きたいわ」
昨日、日野と話し込んでしまった坂上が帰る頃には、もう夕日が傾いていた。
一人で学校を出た坂上は、突然声を掛けられた。
「坊や、飴玉はいらんかね?」
坂上が振り向くと、さっき岩下が話してくれた通りのお婆さんが立っていた。
「飴玉はいらんかね?美味しい、美味しい飴玉だよ」
「僕、お金とか持ってないですし・・・」
「お金なんていらないよ。
私はね、こうして飴玉を配って、子供たちに喜んでもらえるのが嬉しいのさ。
ほら、坊やも一つどうだい?」
そう言って、お婆さんはバスケットの中から飴玉を一つ取ると、坂上に差し出した。
お婆さんの差し出した飴の包みは汚くて、とてもおいしそうには見えなかった。しかもピンポン玉ほどの大きくて食べにくそうな飴だった。
下手に断るとお婆さんを傷つけてしまうかもしれないと思った坂上は、飴玉を受け取った。
「ありがとうございます。
でも僕、今は虫歯でお菓子を食べられないから、取っておいて、虫歯が治ったら食べますね」
「そうかい。まあ、いいだろう。
あんたは真面目そうな子だ。だから、いいことを教えてあげよう。いいかい、一つだけ覚えておくといい。
その飴玉はな、食べた人の心を見透かしてしまう不思議な飴玉なんだよ。
心のキレイな子が食べれば、飴はおいしいがそれ一つで満足できる。そして、その子を幸せに導くのじゃ。
でもね。心が歪んでいる子や心に鬼を飼っている子が食べると、飴の持つ魔力に魅入られてしまうんじゃ。
この飴玉がもっと欲しくて仕方がなくなる。飴玉のことしか考えられなくなって、何も手につかなくなってしまう。
たとえ人を殺してでもこの飴がほしくなるという恐ろしい飴だからね。
坊やも飴を食べるときは気を付けなさいね。いっひっひっひっひ」
お婆さんはそう言うと、どこかへ去って行った。
「これが昨日もらった飴玉なんです。
それで、あのお婆さんの話が気になってしまい、何となく食べるのが怖くなってしまって・・・」
「飴玉ばあさんの飴かぁ、噂は聞いたことあったけれど、まさかそんな秘密があったとはねぇ。
でも、私の知っている飴玉ばあさんの話とはちょっと違うなあ」
「おやおや、玲子ちゃんが知っている噂ってのはどんなんだい?」と風間。
「私が知っているのはねぇ、食べると頭が良くなるって話。
その飴んみはアメムシっていう小さい虫が閉じ込められていてね、舐めることでその虫が孵化して物凄く勉強ができるようになるんだけど、脳みそをたべられてしまいには脳みそがスポンジみたいになって生きた屍になっちゃうんだって。風間さんも食べたんですか?」
「あっはっは、ボクの脳みそ、溶けているように見えるの?」
「うふうふ、僕もその噂知っているよ。
食べれば幸せになれる飴なんでしょ。食べれば食べるほど幸せになれるって聞いているもの。
親友の証に僕にくれない?ね、いいでしょ、うふうふ」と細田。
「飴玉ばあさんの噂は多種多様に渡っていますから。所詮は都市伝説です。
でも、心が歪んでいる人間が食べれは、飴の魔力に魅入られて人生が狂ってしまうという噂は僕も聞いたことがあります。
細田さん、あなたはこの飴を食べてまともでいられると思いますか?」と荒井。
「坂上君はどうしたいの?
自分で食べるなり、誰かにあげるなり、好きにするといいわ。
どうする、坂上君?」と岩下。
「自分で決められないんだったら、俺がもらってやるぜ。サンキュ!」
言うが早いか、新堂は飴を掠め取り、一気に口に放り込んでしまった。
そして、食べ終わって、一言。
「うめえ」
それからは、もう怪談どころの騒ぎではなかった。
飴玉ばあさんの飴がいかにおいしいか、食べてもなんともないのか、そんな話題で持ち切りになってしまった。
しばらくしても7人目は現れず、そうこうするうちに会はお開きになった。
これならば学校の七不思議を特集するよりも、飴玉ばあさんの飴で特集したほうがまだましだったかもしれないと思った坂上は、次の部活で日野と相談するつもりだ。
それからしばらくして、学校の近くで、両目を抉られた殺人事件があった。
そして同時に、新堂が行方不明になったという噂が広まった。
なんでも、新堂は、何か取り付かれたように飴玉ばあさんの噂を聞いて回っていたそうだ。
いつか、あの飴玉の魔力に魅入られた新堂が、自分の前に現れそうな気がする・・・
ゲームオーバー