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ペンション“シュプール”編 27章:地下室へ
透は真理の手を握り、地下室へと向かった。
階段を下りてワイン蔵へ入ると、香山さんがうつぶせに倒れていた。
顔は真横を向いていて、目はかっと開かれている。
その顔を中心に半径1メートルほどのどす黒い血だまりができていた。
「もういや・・・」
真理が透にしがみついて泣いている。
「真理、しっかりしろ!しっかりしてなきゃ、俺たちも殺されるぞ!さあ、とにかく上に戻ろう」
真理を引きづるように階段を上った。
玄関でしばらく立ち尽くし、何をすべきか考えた。
奥さんの春子さんには一刻も早く知らせてあげるべきだ。
そう思った透は、真理の手を握ったまま、2階へ戻り、みんなの部屋のドアを叩いて回った。
「起きてください!非常事態です!お願いです!」
美樹本や香山の部屋からは反応がなかったが、OL3人組の部屋のドアが細めに開いて、可奈子が目だけをきょろきょろと動かして真理と透を見つめている。
「また、何かあったの?」
透が重々しく頷いた時、春子がドアを開けて廊下に出て来た。
「奥さん、御主人が・・・」
春子は一瞬で事態を把握したようで、さっと顔から血の気が引いたかと思うと、よろめいて壁に手をついた。
「主人はどこで?」
「地下室です」
透が答えると、春子は何度か深呼吸して1階へ下りて行った。
「あのおじさんが殺されたの?」
可奈子が声を潜めて聞く。
「それだけじゃありません。どうもオーナーとその奥さんも・・・」
「3人も・・・」
後ろから残り二人の息をのむ音が聞こえた。
「何か物音を聞き・・・」
ドアを閉められてしまった。
耳を澄ますと、部屋の中から誰かの泣き声と一緒に奇妙なつぶやきが聞こえてくる。
「天にまします我らの父よ、迷える子羊をお救いください」
誰かクリスチャンがいたらしい。
透は、もうドアを開けてくれと頼む気にはなれなかった。
透は美樹本の部屋の前に立った。
「美樹本さん!いないんですか?」
さっきよりも強くドアを叩いたが、相変わらず返事がない。
ノブに手を掛け回してみると、驚いたことに鍵はかかっておらず、ドアはあっさりと開いた。
美樹本はちゃんとベッドに横たわっていた。
「美樹本さん!起きてください!」
透はベッドに近づき、彼の耳元でわめいたが、彼はぴくりとも動かなかった。
シーツの上から恐る恐る体をゆすってみる。
丸太みたいに硬直している感じだ。
「脈とってみたら?」と真理が言うので、シーツの上に出されている腕をそっと掴んでみたら、氷のように冷え切っていた。
透は慌てて手首を掴みなおし、慎重に脈を探った。
「やっぱり死んでいるのね?」
真理に聞かれた透は、黙って頷くしかなかった。
脈は完全に止まっていた。
「美樹本さんは殺されたんじゃないかもしれない」
「どういうこと?」
「美樹本さんは頭をひどく殴られていた。もしかすると、あの時脳内出血を起こしていたのかもしれない。放っておいたら死んでしまう」
「じゃあ自然死?」
「もともとの原因は殴られたことだから、殺されたことに変わりないけど・・・他に外傷が見当たらない以上、そう考えるしかないんじゃないかな」
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