今日のアパシー学校であった怖い話1995特別編はどうかな?
4週目開始!
1人目は新堂誠を選択。
「お前がどうして新聞に入ったのか教えてくれねえか?」
- なんとなく入りました
- 前から憧れてしました
- 何かお勧めのクラブは?
「俺が勧められる部活は・・・」
- ボクシング部
- 空手部
- パフェ同好会
シナリオ:
ゴングが鳴って開始!
「ボクシング部に入る奴らは何のために入部すると思う?」
- 人を殴る為
- ストレス解消
- 強くなるため
「てめぇ、本気で言ってんのか」
「ボクシングって、人を殴るだけのスポーツじゃないですか。だから、普通に考えるとそうかなって・・・」
「ふん、坂上、てめぇには正直がっかりだぜ。ボクシングはそんなもんじゃねぇよ。
気分が削がれちまったぜ。この話はやめだ、やめだ」
(新堂さんの機嫌を損ねてしまったようだ)
- 話してもらうようお願いする
- 次の人、お願いします
「すみません、僕の失言でした。どうか、話を続けてもらえないでしょうか?」
「いいか、坂上、ボクシングは男のスポーツだ。二度と殴り合いの喧嘩だ、みてえなこと言うんじゃねえぞ」
「はい、肝に銘じます」
「しょうがねえな。じゃあ、話を続けてやるよ。
いいか、坂上。ボクシングは強くなるためにやるんだよ。
でもな、本当の強さってのは、腕っぷしで決まるもんじゃない。
生きていることへの感謝からくるやさしさと、自信。この精神的な強さから本当の強さが生まれるんだ。
これを履き違えると、とんでもねえ事態を引き起こすことになる」
新堂が1年生の時、同じ学年に新谷健也という生徒がいた。
新谷は、同じクラスの粋がっている連中にしょっちゅういじめられていた。
ここの学校の教師は、そういうのを見て見ぬ振りをするのがほとんどだったが、担任の植野裕樹だけは、この学校には珍しく、いじめを見逃さない、許さない、心に芯のある男だった。だから、新谷はよく植野に助けられていた。
「またお前らか!やめろって言ってるのがわからんのか!」
「やべ、植野が来た。逃げっぞ!」
「新谷、大丈夫か?」
「はい、ありがとうございます」
「しかし、あいつらも懲りないな。
お前に非があるとは言わないが、やはりいじめられた時に対抗できるようにならないとな」
「はい」
「そうだ、俺が顧問をやっている部活に入れ。
そこで鍛えて、あいつらがいじめてきても、やり返せるようにするんだ!
本来、腕っぷしに訴えかけるのは、気が引けるが・・・」
植野が顧問をしていたのはボクシング部だったので、新谷は植野に言われるまま、ボクシング部に入部し、植野の指導が始まった。
「さあ、練習を始めるぞ!ゴングが鳴ったら試合開始だ!」
「はい・・・」
「どうした?相手に向かって行かないと練習にならないぞ」
「あの・・・暴力は・・・」
「暴力じゃない、スポーツだ。そして、自分を鍛える鍛錬でもある。
さあ、新谷、がんばるんだ」
いじめられている人間に、相手に立ち向かっていくという精神を植え付けるのは大変なことだったが、植野はそれを根気よく新谷に教え込んだ。
「別に相手に怪我を負わせるのが目的じゃないんだ。お前の場合、いじめられないように防衛できればいいんだからな。
さらにそういうことに怯えない強い心を作らないとな。そして、立ち向かっていく精神を・・・」
「はい」
「さあ、頑張るんだ。ゴングが鳴ったら、お前は変わる!
新谷、お前は強い。いじめっ子なんかには負けないくらい強いんだ!
さあ、立ち向かえ!」
そうやって、植野は毎日新谷に、お前は強いんだ、と言って聞かせていた。
それを繰り返していると、少しずつ新谷の心に変化が訪れた。
ある日、いじめっ子たちが新谷のズボンを無理やりに脱がそうとした時、新谷は「やめろよ!」と言って、両手でいじめっ子を押しのけた。
思わぬ反撃を受けたいじめっ子たちは、新谷に向かって拳を振り上げたが、新谷は植野との練習で体が覚えていたので、とっさにそれをよけて、いじめっ子に右ストレートを叩きこんだ。
その時、騒ぎを聞きつけた植野が現れたので、いじめっ子たちは蜘蛛の子を散らすように逃げて行った。
「先生、僕、逆らえました。立ち向かっていけました!」
「やったじゃないか、新谷。
これでもう、俺がいなくても大丈夫だな。特訓もしなくてもいいだろう。
新谷、お前はもう大丈夫だ。お前が反撃できたことであいつらも大人しくなるだろう。
お前はもう弱い奴じゃないよな?」
「はい」
「いい返事だ。それじゃあ、俺はもう行くからな」
まだ何か言いたげな新谷を残して植野は、その場を後にした。
責任感の強い植野とはいえ、いじめられるたびに仲裁に入ったりするのに、少し疲れていたのだ。
それにボクシング部での特訓も、他の部員を差し置き、新谷にばかりつきっきりで特訓をしていたもんだから、当然他の部員から不満の声が上がっていた。
そういうこともあって、植野も少し新谷のことは重荷に感じ始めていた。
でも、こうして信谷は反撃することができた。もうあいつは俺がいなくても大丈夫。
そう思って、今後は極力、新谷のことを構うのはやめようと、植野は思った。
あの一件以来、いじめっ子たちは新谷にちょっかいを出すのはやめたようだった。
しかし、新谷の気持ちは複雑だった。
確かにいじめはなくなったが、いじめっ子たちは新谷の顔を見ると無視するようになった。
いつも助けてくれた植野も、いじめられない限り、新谷に構わない。
いじめはなくなったが、新谷は一人になってしまった。
新谷はもともと内向的な性格だから、自分から友達を作ることはできなかった。
昼休み、教室から出た新谷は、廊下で大勢の生徒に取り囲まれた植野と鉢合わせた。
植野は生徒たちからの人気も高く、生徒たちは植野に、いっしょにお昼を食べようと誘っていた。
植野は、取り巻きの生徒を黙らせてから、思い出したように口を開いて、「そうだ、新谷。お前の一緒に学食で食うか?」と言った。
しかし、取り巻きの生徒たちは、新谷に対し氷のような視線を投げかけた。
自分を拒絶する視線だと、新谷は感じた。
「い、いえ・・・」
新谷は、そういうのが精一杯だった。
「そうか、じゃあな、新谷」
新谷は、生徒たちに囲まれて去っていく植野の背中をいつまでも見ていた。
身近に感じていた植野の存在を、今は遥か遠くにいるように感じていた。
放課後、新谷は、自分からいじめっ子に声を掛けたが、いじめっ子たちはいつものように新谷を無視した。
すると、新谷は、「待ってよ。前みたいに僕のことをいじめてほしいんだ」と言い出したが、いじめっ子たちは「わけわかんないこと言ってんじゃねえぞ」と言いながら、新谷を振り払って去って行った。
夜、宿直の当番だった植野は、宿直室で日誌を書いていた。
するとドアが叩かれ、「新谷です」と声が聞こえて来た。
植野がドアを開けると、全身血まみれになり、うつろな目をした新谷が立っていた。
「誰にやられたんだ!」
しかし、新谷は答えない。
「とにかく、服を脱いで傷口を見せるんだ」
植野はそう言って新谷の服に手をかけたが、違和感に気づいた。
新谷の顔や服には傷がないのだ。
「新谷、これはお前の血じゃないだろう。
一体これは誰の血だ?」
「みんな、酷いんですよ。嫌だって言った時はいじめるくせに、いじめてくれって頼んだ時はいじめてくれないんです」
(まさか新谷があいつらを手にかけたのか?)
「新谷、お前、どうしてこんなことをしたんだ?」
「だって、いじめられないと誰も僕のこと、見向きもしてくれない。誰も僕のこと、守ってくれないんだ」
「新谷、そんなことはない。それよりもこの返り血の奴のところに早く連れて行くんだ」
「先生は、僕よりもあいつらのことを助けるんですか?」
「今はそんなこと言っている場合じゃないだろう!早くしないと死んでしまうかもしれないんだぞ!」
「だめだ!先生は僕を助けてくれなきゃだめなんだ。いつも僕のことを守ってくれなきゃだめなんだ!」
そういうと、新谷は、植野の首を締めあげた。
遠くなる意識の中で見た新谷の顔は、目が血走り、まるで鬼が乗り移ったような表情をしていた。
もう駄目だ、と植野が思った瞬間、何かが千切れたような嫌な音がして、途端に首を絞める力が弱まった。
新谷は地獄の底から湧き上がるような呻き声を上げながら、腕を抑えて地面を這いずり周っていた。
腕の筋肉が切れたんだ、と思いながら、植野の意識はそのまま遠くなっていった。
再び意識を取り戻した時、植野は病院のベッドにいた。
結局、あの返り血は、植野が察した通り、新谷をいじめていた奴らのものだった。
いじめっ子は、学校近くの公園の茂みで発見された。
何とか一命をとりとめたようだが、あちこち殴られ、ボロ雑巾みたにな状態だったそうだ。
結局あの事件があってから、責任を感じた植野は学校を去った。
「なんで、弱っちい新谷はそんな力を出せたかって?
ほら、火事場の馬鹿力って言葉があるだろ。
人間ってのは、普段は使える力の数パーセントしか使えないよう脳みそが制御しているらしい。
火事場とか自分がピンチの時にリミッターが外れて、普段の力とはくらべものにならないくらいの力を発揮できるようになる。
だが、それは自分の体を犠牲にする諸刃の剣だ。加減を知らず、肉体に負担をかけすぎるととんでもないことになる。
あの時新谷の腕の筋肉が引きちぎられたのも、許容量以上に体を酷使した結果だろうな。
あいつは弱いままでいたかった。誰かに守られたままでいたかった。
強かったら誰にも守られる必要はないもんな。
事件のあと、新谷は入院したよ。もう一生、出てこれることはないがな」
新堂エンディング№22:強さ
CGギャラリー:40/124
にほんブログ村