屍人荘の殺人 〈屍人荘の殺人〉シリーズ (創元推理文庫)
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今日の
屍人荘の殺人はどうかな?
途中の駅で早めの昼食をとり、JRから私鉄に乗り換えてさらに30分。電車はある地方駅に到着した。
ホームの階段を下りようとしたところで、後ろから声をかけられる。
「明智さん、剣崎さん」
振り向くと二人の男女が立っていた。
「おお、進藤君、今回は無茶を聞いてくれてありがとう」
映画研究部の部長の進藤は、眼鏡をかけて気の弱そうで、真面目そうな風貌をした痩躯の男性だ。
「本当なら許可できないんだけどね。剣崎さんの提案もあったし、場合も場合だった。まあ楽しくやろう」
二人はこちらに向き直ると自己紹介した。
「語句が映画研究部長の芸術学部3回生、進藤歩。それとこっちにいるのが」
「進藤君と同じ、芸術学部3回生の星川麗花です。私は演劇部なんですけど、撮影に参加させてもらいます。よろしく」
緩くウェーブのかかった栗色の髪とアイドルのような愛嬌のある顔出ちの美人だ。二人の指にはおそろいの指輪が光っていた。恋人同士なのだ。
続いて葉村たちも自己紹介する。剣崎が名乗ると進藤は、
「今回は助かりました。なかなかメンバーが集まらなくて」
と、頭を下げた。明智の時とはずいぶん態度が違う。
「他のメンバーは?」
明智ががらんとしたホームを見回す。
「道具類と一緒に車で先行している部員もいるから、ここで合流するのはあと3人だな」
進藤が答えた。
改札を出ると、駅前のこじんまりしたロータリーに大きなワゴン車が停まっているのが見えた。
運転席から男性が降りてきた。眼鏡をかけた誠実そうな雰囲気な男で、年齢は30前後に見える。
「どうも神紅大学の方ですね。僕はペンションの管理を任されている管野唯人といいます」
「去年の方はお辞めになったんですか」進藤は少し戸惑いを見せる。
「ええ、僕は去年の11月からお世話になっています。他の方はもう乗られています」
車にはすでに到着していたメンバーが3人が乗り込んでいた。
ところがその並びを見て不思議に思った。ワゴン車の座脇は全部で4列、前から2・2・3・3だ。先着していたメンバーは2人が最後列に陣取り、一人が助手席に座っていた。まるで反発する磁石のように最も離れた座席に分かれるのはいかにも不自然だ。
進藤も怪訝な顔をしたが、黙って2列目に乗り込む。続いて、明智も彼の隣に。
葉村と剣崎は3列目の奥から詰めて、星川がその隣に座る。
助手席の女性はひどく早口で告げた。
「すみません。乗り物酔いが酷いもので」
鋭い空気をまとった理知的な印象の美人だった。近くにいる明智が応じる。
「大丈夫ですよ。俺は明智といいます。後ろにいるのが葉村君と剣崎さん」
「名張純江です、芸術学部2回生」
すると、今度は後方からぶっきらぼうな声が飛んできた。
「あたしは高木、こっちが静原」
右側に座っている背の高い気の強そうな方が高木、左側の小柄でおとなしそうな方が静原らしい。高木はボーイッシュなショートヘアとくっりした目鼻立ちが印象的な美女で、一方の静原は瀟洒というのがしっくりくる黒髪の少女だ。
車がロータリーを出発した、駅が出て10分も走ると周囲から人家は消え、緑豊かなエリアへと入って行く。だが以外にも片側一車線の道路は多くの車でごった返しており、なかなかスムーズに進むことができない。
「いつもはガラガラなんですが、今日と明日は近くの自然公園でイベントがあるらしくて」と管野が言うと、高木が補足する。
「サベアロックフェス。さっき調べたら有名どころのバンドも参加するらしい。な、美冬」
話を振られた静原は、小声ではい、と頷いた。
「去年は確か日程が1週間ずれていたから被らなかったんだ」
「高木さんは去年も参加されていたんですか」と葉村が聞くと、「まあね」とだけ返される。
「僕と彼女だけだよ、2年連続の参加は」と進藤が言った。
「これが合宿のしおりね」
星川から平綴じにされた6ページほどの冊子が渡される。
中を見ると二泊三日の行動予定の他に、宿泊するペンションの部屋割りもすでに決められていた。ペンションの名前は紫湛荘というらしい。現役生の参加は映画研究部と演劇部、葉村たち部外者組の総勢10名。それにしても部屋割りに空白が目立つ。それを見て明智が口を開いた。
「部員の参加率はどれくらいのもんだい」
「半分もいないよ。参加の義務があるわけじゃないんだ。あとはペンションを提供してくれるOBの先輩が同期の友人は2人連れてくることになってる」と進藤が答えた。
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