屍人荘の殺人 〈屍人荘の殺人〉シリーズ (創元推理文庫)
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今日の
屍人荘の殺人はどうかな?
渋滞した道をとろとろ進むうちに車窓には海かと見まちがうほど大きな湖が姿を現した。娑可安湖だ。広さは琵琶湖の1/5程度らしいが目前にすると十分に壮大だ。
「あれですよ」
管野が指さした先に一瞬、ベランダに掛かる赤茶色の屋根らしきものが見えたが、すぐに生い茂る木々に飲み込まれてしまった。
「なんというか、ずいぶんな立派な建物ですね」
田舎の小学校くらいの大きなはあるんじゃなかろうか、と葉村は思った。
駐車場にはすでに2台の車が停まっていた。
「赤のGT-Rか」と明智がつぶやく。
「兼光さんの車ですよ。ここのオーナーの息子です」と管野が苦笑する。
「はッ、去年はそこの坂で底を擦っただの騒いでいた癖に、懲りない奴だな」
振り向くと車内ではあまり口を利かなった高木だ。
玄関に入ると、床一面の臙脂色の絨毯が敷き詰められていた。正面のガラス窓のはまったフロント、奥に小さな庭に面したテラスに見えた、左手にはバレーボールのコートを轢けそうなくらい広いロビーがあり、ガラス張りの大窓から太陽光が差し込んで照明なしでも十分明るい。
ロビーにはテーブルを挟んでソファが並び、そこに3人の先客が座っていた。そのうちの一人の男がこちらを向く。ギョロリとした目つきで両目の間が広くモヒカンに近い髪形をしているせいで魚類を彷彿とさせた。
「おっせーよ。こっちは朝からずっと女の子を待ってんのにさぁ。先に到着したのはデブ男で吐きそうになったぜ」
進藤が頭を下げる。
「すいません、道が混んでて。あの、女の子も一人先に着いてませんか」
「知らねえよ」
ずいぶん偉そうなので、おそらくオーナーの一人息子だろう。
「やめろ、出目。俺たちが恥ずかしい」
それを諫めたのはよく日焼けした男だった。オールバックの髪を後ろで結び、白シャツの胸元に銀のネックレスを下げたワイルドな二枚目だ。
「初めまして、神紅大学の諸君。俺たちは映研かないが神紅大学のOBで、ここに座っている七宮の友人だ。俺は立浪波流也。そのうるさいのが出目飛雄だ」
出目はこめかみを叩きながら
「最初に聞いていた女子の数が減ったんじゃないか。進藤、要領の悪い奴だな」
「いえ、その、やむを得ない事情で来られない部員がたまたま重なりまして」
七宮は菅野にしゃくった。
「とりあえず部屋に案内してやってくれ。進藤、この後は撮影だったか」
「はい」
「晩飯のバーベキューは6時だ、遅れるなよ」
それだけ確認すると年長組3人はペンションを出て、駐車場へ下りていった。
「あの人がここのオーナーの息子だね」と明智が確認する。
「そう。3、4年前に卒業した映研のOBなんだ、今でも後輩たちを無料でペンションを泊まらせてくれるんだから、太っ腹だよね」
進藤は額に脂汗を浮かべて早口で釈明するが、女性陣からはかなり引いてしまっている。
一人平気そうな剣崎がしおりを眺めながら言った。
「部屋割りの名前が空白の部屋のどこかにはすでに彼らが宿泊しているとくことですよね」
星川たちは慌てて部屋割りを確認する。
空欄の部屋は2階に4つ、3階に2つある。そのいずれからにOBが泊っているなら、直接隣り合う可能性があるのは星川の203号室、名張の206号室、下松の302号室、静原の307号室だ。剣崎bの201号室の隣が高木だということを確認し、葉村は少し安堵する。
葉村の部屋は、3階の端っこで、隣は静原だ。
管野がフロントの鍵を開け、カードの束を持ち出した。
「じゃあお部屋のカードキーをお渡ししますね。部屋に入ってすぐ横の壁にホルダーがあって、そちらにカードを挿すと電気が点きます。オートロックなので、外出の際は室内に忘れないよう注意してください。
あ、それと、あちらのエレベーターはかなり狭くてせいぜい4人くらしか乗れないんですよ。全員が一度に上がるのは無理なので、階段も使っていただければ」
エレベーターの左手に東へ続く廊下があり、その先に階段がある。遠回りだが葉村の部屋は階段から近いので、階段を使うことにした。
明智が時計を見ながら言った。
「この後、他のメンバーはさっそく撮影に行くそうだが、俺たちはどうする?」
少し考えて、撮影に同行させてもらうことにした。
「剣崎さんはどうします?」
「一緒に行くでしょ。それとね、葉村君、剣崎って呼ぶのやめてくれるかな。比留子でいいよ」
「わかりました、比留子さん」
比留子は201号室なので、後で落ち合う約束をして2階で別れ、葉村は明智といっしょに3階に上がった。明智の部屋は303号室でエレベーターホールのすぐそばだ。
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