今日の
十角館の殺人はどうかな?
一晩中、悪い夢を立て続けに見ていたような気がする。
ルルウはけだるい腕を伸ばして毛布を拾い上げ、膝に掛けた。
霧に包まれた頭の中に四角いスクリーンが下りてくる。その画面に4日前この島に上陸した当初の仲間たちの顔が、次々と大写しになっていく。
自分を含めれば7人とも、それぞれの形で、このちょっとした冒険旅行を楽しんでいた。無人島という解放感に溢れたシチュエーション、過去の事件に対する好奇心、漠然としたスリル。多少のハプニングやトラブルがあったとしても、かえってそれがほどよい刺激となって、1週間という時間などあっと言う間に過ぎ去ってしまうだろうと思っていたのだ。なのに・・・
オルツィーの首に巻き付いた細い紐が、黒い毒蛇が姿を変えてしゅるしゅると動く。
次はカーだ、骨太の身体が苦痛にねじれ曲がる。激しい痙攣、嘔吐、そして・・・
「なぜ何だ」
地下室の闇に落ちていくエラリイの身体。険しいポウの声。蒼ざめたヴァンの顔。ヒステリックのアガサのふるまい。
頭の中のスクリーンに、黒い人影が映し出される。
黒いその影がにわかに形を整え始め、やがてそれは小柄の色白の一人の女性の姿に変わっていく。
あの中村千織という子が中村青司の娘だったなんて、そんなことがありうるのだろうか。
「そんなこと、あるわけない」
ルルウは考えた。海だ。ここは、これは・・・
(昨日のだ)
これは昨日出会った光景だ。
何かに憑かれたようだった。
一人で外に出るのは危険だ、と一瞬そう思いはしたが、それはすぐに霧の立ち込めた心の奥へと沈み込んでしまった。
ルルウはゆらりとベッドから立ち上がった。
アガサがドアを細く開けて、ホールの様子を窺った。
誰もいない。人が起きている気配もない。
洗面所に入ると、ドアは半分開けたままにしておいた。
化粧台に向かい、鏡を覗き込む。
これが本当の自分の顔なのかと思えるほど荒んで見えた。
事件のことはもちろんだが、ゆうべ自分が演じた醜態を思い出すと、ため息は一度では済まなかった。
いつも美しく、そして凛々しくありたい、と彼女は常々に思っていた。いつも、どんな時でも、どんな場所でも、だ。自分はそれができる女性であり、そうあることが自分の誇りなのだと、ずっと思い続けてきた。
(お化粧はもっと明るめにしなきゃ。口紅も今日はローズじゃなくって赤に替えよう)
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