今日の神無迷路はどうかな?
清水の視線が鋭く部屋を横切り、霜月に注がれた。
「君がパソコンをいじっているのが監視カメラの映像で確認できたから戻って来たんだが、どういう訳か説明してもらえるか?」
「申し訳ありません、実験の内容が気になってしまって・・・」
「気なることがあるようなら、私に直接聞け」
清水は自分の席に戻った。
「その前にやることがある。少し待っていてくれ」
彼女の指がキーボードを素早く叩くと、画面上にチャットウィンドウが現れた。
そこに映し出されたのは、金属製の椅子に座り、奇妙な形の電子機器を頭に載せた蕗屋だった。
「蕗屋君、聞こえるか?」
「この椅子、ちょっときつい」
「目の前のモニターを見ろ。すぐに赤と青の光の玉が現れるから、その位置を覚えておいてくれ」
「頑張ってみる」
「これから君を外界から遮断し、完全に隔離した状態にする。何かあれば椅子の横のボタンを押してくれ」
「わかったよ」
「では、実験を開始する」
清水はそう言い終わると、椅子を回転させて波立たちの方を向いた。
「そんなに実験に興味があるなら、少し話をしようか。
人は同時に二つの扉を通り抜けることができると思うか?
もし君が先に実験に行くことを望んでいたら、あの場所に座っているは蕗屋君ではなく君だっただろう。信じがたい話かもしれないが、実験に行った君と、行かなかった君は実際に今、同時に存在している」
清水が指し示す方向を見たが、もちろんそこには誰もいない。
「研究者として、そんな突飛な発言をしてもいいんですか?」と霜月が率直に言った。
「もちろん。これは宇宙に関する根本的な問題に触れているからね」
清水の背後にあるパソコンの画面に映し出されたデータが跳ね始めた。
「データ収集は順調のようだ。
時空一体という言葉を聞いたことはあるか?
そうだな、光速について話をしよう。メガネ君、我々の宇宙では光速が限界速度なんだ。どんな速度で動いていようと、光速はどんな参照枠から見ても変わらないんだ」
「本当ですか?人類が光より速いものを発見していないだけでは?」
「光速は一定だよ。これは基本的な定理だ」
「確かにそうですね。光速が光そのものとは何の関係もないのは事実です」と霜月が言った。
波立はホワイトボードにA点、B点と書き込んだ。
「私と光が同時にA点からB点へ向かい、AB間の距離が光が1秒進む距離だとすると、私も光速で進むなら、私と光は1秒後に同時にB点に到達するはずで、私の視点からは光は停止しているように見えるはずです」
さらに、B点に続きC点を書き足した。AB間の距離とBC間の距離は同じだ。
「もし私を基準として光の速度が一定とするならば、1秒後にC点に到達するということではないですか?これは私という存在が光の速度を倍にしたという意味では?」
「すごいですね。これってローレンツ変換の基本理論じゃないですか?」と霜月が感心しながら言った。
「どうして光の速度が一定なのか説明してくれる?」
霜月がA点に〇を書いて言った。
「1秒後、良志さんはまだここにいる」
「え、どうしてそうなるの?」
「良志さんの視点では時間の流れが止まっているんです」
「光速に近づけば近づくほど、経験する時間は長くなる。これがアインシュタインの相対性理論だ」と清水が言った。
「時間の流れが変わるなんてありえるんですか?あまりにも常識に反しています」
「常識に反しているというよりも、実際は私たちの常識の方が派生したものなんです。例えば粒子加速器がありますよね。あれは相対性理論の原理に基づいて、粒子を光速近くまで加速させることが、粒子の寿命を延ばしているんです」と霜月が言うと、清水が続けた。
「粒子に関して言えば、あれは時間を引き延ばすだけでなく、逆流することもできるんだからな」
「超光速のことですか?量子力学におけるもつれ減少の?」
霜月がそう尋ねると、清水が頷いた。
「時間が逆流するって、どういう意味でしょうか?」
「因果律を逆転させるんだよ。
例えば今、コーヒーカップを床に投げたら割れるだろう?なら、カップを投げるという行為は、カップが割れるという事実から生じたものだとしたらどうだ?」
「つまり、コーヒーカップが割れるから投げたってことですか?あなたがコーヒーカップを投げたのは、あなたの意識がそう決めたのであって、割れるからではありません」
「自由意志は幻想だよ。宇宙の過去、現在、未来は一つだ」
「私は同意できません。あなたの言うことは量子レベルでは起こるかもしれないけど、私たちが生きる現実が幻想だとは思えません」
「御船千鶴子の千里眼事件って聞いたことはあるか?もし知らないなら、予知夢のことは?あるいは、予感とか?」
- A:「千里眼事件とは何ですか?」
- →「御船千鶴子は明治時代に超能力者として広く認められた女性です。1904年の日露戦争の際、彼女は千里眼の能力を使って戦況の詳細を語り、社会に波紋を起こしました。当時、東京帝国大学の福来友吉教授が彼女に対して一連の公開事件を行い、この実験を巡る様々な出来事が千里眼事件と総称されるようになったんです」
- 「当時はどんな実験をしていたの?」
- 「漢字の書かれたカードを円筒形の容器に入れ、さらにその容器を小さな箱に入れ、縄で縛って封をし、御船千鶴子に渡して、カードに書かれた漢字を言い当てるというものです」と霜月が説明してくれる。
- 「まるで透視術みたいだね」
- 「透視術というよりは、ある種の予知能力のようなものだ。
- 御船千鶴子は実験中、カード上の内容を正確無比に言い当てることができた。まるで過去の彼女が未来の知識を知っているかのような現象だ」と清水が付け加える。
- B:「予感について教えてください」
- →「ジョン・モルガンについて知っているか?アメリカのゼネラル・エレクトリック社の創業者だ」
- 「ええ。アメリカの富の1/4を持っていたとか」
- 「モルガンはタイタニック号に乗る予定だったが、乗船前になんとなく嫌な予感がして直前にキャンセルしたんだ」
- 清水が「海」という言葉を口にしたとたん、波立に不気味な幻覚が襲い掛かって来た。
- 「モルガンはその予感のおかげで災難を逃れることができたんだ。
- 実際、似たような例は多々ある」
- 「すべて偶然では」
- 「いや、彼らは私たちの通常の知覚の領域を超えた事実を感知しているのさ」
- C:黙り込む
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