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チラシの裏~勇者弐位のゲーム日記

 ゲーム大好きな大阪のオバチャンのほぼゲームのことしか書いてない日記。10年やってたブログがプログラム書き換えられて海外の怪しいサイトに飛ばされるようになったんで、2017年4月に引っ越ししてきました。10年分の過去記事が36MBもあるし、データが壊れてるのか一部送れないものもあり、まだまだインポートの途中(;^_^   過去記事分は引っ越しで持ってきたものなので、表示が一部おかしいかもm(__)m  

ペンション“シュプール”編 16章:襲われた美樹本(←15章B)

 

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 今日のかまいたちの夜×3はどうかな?


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日野7話目エンディング№34:蟲毒の呪い


 今日のアパシー学校であった怖い話1995特別編はどうかな?


 4週目開始!
 1人目は新堂誠を選択→シナリオ:戦いのゴングがなって→新堂エンディング№19~24を見る
 2人目は荒井昭二を選択→シナリオ:戦下の友情→荒井エンディング№08~10を見る
 3人目は風間望を選択→シナリオ:かぐわしきにおひ→風間エンディング№01:かぐわしきにおひを見る
 4人目は福沢玲子を選択→シナリオ:歪んだ被写体→福沢エンディング№8~11を見る
 5人目は岩下玲子を選択→シナリオ:黒と赤の法悦→岩下エンディング№20~24を見る
 6人目は、細田友春を選択して、シナリオ:トイレの友情→細田エンディング№15:裏切り者はどちらかを見る


 新堂エンディング№22:強さ荒井エンディング№10:戦下の友情風間エンディング№01:かぐわしきにおひ細田エンディング№15:裏切り者はどちらかを見て、7話目に行く。


 シナリオ:蟲毒の地下室


 6人目の話を聞き終え、これからどうしようと思っていると、ドアを開けて日野が入って来た。
 「お疲れ」
 「あ、日野先輩、お疲れ様です」
 「どうだ、取材は無事に終わったか?」
 「はい、ここにいらっしゃるみなさんの分は聞けました」
 「どれ、見せて見ろ」
 そう言って、日野は坂上の取材ノートを手に取り、目を通し始めた。
 「へえ、ずいぶん面白そうな話をしていたんだな」
 「そうですね、みなさん、いろんなお話をご存じで」
 「これならいい記事ができそうじゃないか」
 「あ、でも、実はまだ7人目の方がいらしてないんですよ」
 「そうか」
 「日野、お前ちゃんと7人に声を掛けたのかよ?」と新堂が指摘すると、日野は部室にいる人たちの顔を見ながら指を折って人数を数えだした。
 「あ、あれ?・・・すまん、6人しか声を掛けてなかったようだ」
 「ええ!じゃあ、どうすれば・・・」
 「そんな心配そうな顔をするなよ、坂上。
 よし、こうなったら俺が責任を取って、7話目を話してやろう」


 「今から俺が話すのは、ある呪いの話だ。
 みんな、蟲毒は知っているか?
 蟲毒の作り方には諸説あるが、複数の動物を箱や甕などの密閉空間に入れ、それを地下に埋め、共喰いの果てに生き残った1匹を用いる、という大まかな流れは変わらない。
 箱に閉じ込められる動物を種類は、サソリ、ヘビ、ヤモリ、蝦蟇、ムカデ、クモなんかが一般的だ。共通点はみんな毒を持った生き物だというところか。
 互いの毒を喰らいあううちに、最高の強まった毒性が生き残りの一匹に宿り、人を呪うにはもってこいの生物が誕生するんだそうだ。
 だがな、実は毒性のない動物でも蟲毒は可能らしい。その場合は、殺されることや、喰われることへの怨念が積もり積もって、生き残った一体に強い呪いのパワーが宿るというわけだ」


「かつて、この学校のある男子生徒が蟲毒を試したいとい衝動に取り憑かれた。名を仮に君塚としておこう。
 君塚は充分に恵まれていたから、誰かを呪ったり自分を幸せにするために蟲毒を利用しようと考えていたわけではない。蟲毒という呪法に対する、漠然とした憧れや好奇心に取り憑かれたのさ」


 君塚は小さい頃から、自分より弱い生物が苦しむ様子を観察するのが好きだった。
 弱ったカマキリを蟻の大群に襲わせたり、蜘蛛の巣にかかった蝶が食われる様子を観察したり、そういう弱い生き物を見て自分が優越感を得ることだけが、唯一の心の慰めだった。
 そんな彼が、蟲毒という呪法が存在することを知り、それに執着したのは、必然ともいえた。
 自分の意思に反して、真っ暗な甕に閉じ込められ、飢餓に駆り立てられて互いを喰らい合う哀れな動物たち。そんな凄惨な状況を想像するだけで、彼は眠れないほど興奮した。
 その上、共喰いのたびに毒や恨みが勝利者の体内に蓄積されて、最終的には憎悪のいかたまりのような生物が完成する、という図式にも、美学を感じて止まなかった。
 そして、長い年月、そんな妄想を弄ぶうちに、自分の手で蟲毒を実現させてみたいという欲求に遂に勝てなくなった。
 しかし、君塚は虫などを集めるうちに実につまらない行為だということに気がついた。
 まず箱を地中に埋めて結果を待つ以上、呪法が成就される過程をその目で見ることができないことが不満だった。
 それに、うまいこと蟲毒の生物を誕生させたところで、昆虫や両生類の毒性や恨みなどたかが知れている。
 そして彼は、どうせなら高度で複雑な感情を持つ生物で蟲毒の実験を行い、その一部始終をこの目で見るべきだ、という妄念に取り憑かれてしまった。
 そんな生き物は、ひとつしか存在しない。そう、人間だ。
 君塚は、おそらく一度きりしか行うことができないであろう大切な実験のために、2年の歳月をかけて慎重に準備した。
 人を材料とした蟲毒を行おうと思い立ったのが、1年生の春。彼が目をつけた場所は、この学校の旧校舎だった。
 そして、彼は何度が下調べをしているうちに、人を閉じ込めるのに持ってこいの地下室を見つけた。
 そして、3年生の夏休み直前になって、それはようやく実行に移された。


 夏休みに入ったばかりの蒸し暑い日、君塚は学校に7人の生徒を呼び出した。
 集められたのは5人の男子生徒と、2人の女生徒。
 その日まで互いの顔すら知らなかった7人には、ある共通点があった。それは、根っから怖い話が好きだ、ということだ。
 君塚に百物語をするのにぴったりの場所があると誘われて、彼らは旧校舎へと向かった。


 君塚は旧校舎の階段の先にある地下室へと、7人を案内した。
 しかし、最後の一人が地下室への階段を降り切ったところで、背後で鉄製のドアがバタンと閉まり、無情な掛け金の音が地下室に響き渡った。
 「おい、君塚、なにやってんだよ!」
 「鍵がかかっている!」
 7人はあらゆる手段を試した後、ようやく逃げ場がないことに気づいた。
 改めて室内を見ると、むき出しのコンクリートが四方を固めているだけの、実にそっけない部屋だ。照明は天井の中央に裸電球がぽつんと点いているだけで、四隅が翳るくらいに頼りない。
 他にあるものといえば、部屋の隅にダンボールが一箱。壁が分厚いこと、ドアが頑丈なこと。
 脱出口にはならないものの、空気取りの穴が開いていることなどを確認した彼らは、藁にも縋る思いでダンボールを開けた。
 まず水。7人で分けると3日持つか持たないかの量だった。
 あとは、包丁、ナイフ、ボウガン、縄、アイスピック、ノコギリ、釘、トンカチ、鉄パイプ、毒入りのビン、鎌、カッター、ナックル、竹刀という武器の数々。
 その中の一人が細い釘を拾い上げ、階段を上がり、ドアの前にしゃがみこんだ。そして、鍵穴に釘を差し込み、ピッキングを試みた。
 「ぎゃ!!!」
 ヒステリックな絶叫をあげたかと思うと、体が不自然にのけぞり、痙攣しながら、階段を転げ落ちた。
 駆け寄った6人が見たのは、妙な角度に首がねじ曲がった男子生徒の姿だった。
 混乱を制するかのように、どこからともなく声が響いてきた。
 「鍵穴には電流が流れているんだ。触らない方がいい」
 それは、他ならぬ君塚の声だった。よく見れば、天井の一辺にスピーカーが供えつけられていて、声はそこから聞こえて来た。
 君塚は、人間を用いた蟲毒を思いつき、ここにいる人間で実践しているのだという、自分の野望を語って聞かせた。
 「蟲毒は憎悪を喰らいあって膨らませることで完成される呪法なのだから、君達には本気で殺し合ってもらわなくてはならない。
 誰か最後のひとりになるまでに、ドアを開けるつもりはない。様子は監視カメラとマイクで常に探っている。グッドラック」


 通信が切れそうになったので6人は一斉に騒ぎ立てたが、君塚は沈黙を通した。
 しかし、そのうちの一人が、口にした疑問に君塚は答えた。
 「なあ、どうして俺たちなんだ?」
 「蟲毒は毒や恨みなどの負のエネルギーを、互いに食わせることによって増幅させ、吸収させ、ひとつに集めることで完成される。
 ならば、人間でも同じく強い毒性を持つ者がいいだろう。だから君達を選んだんだ」
 「どういうことよ!」
 「君たちの共通点はな、犯罪者であることだ。万引きした者、カンニングした者、嘘ばかりついている者、親を欺いた者、親友を裏切った者、喧嘩で相手に重傷を負わせた者、恋人を死に追い込んだ者・・・」
 君塚はそう言うと、マイクを切った。


 君塚は6人の監視を行うため、地下室の上の教室に機材を持ち込んでいた。機材の一式は教卓の影にうまく隠し、配線も巧みに瓦礫になじませたので、深夜の見張りが懐中電灯でひと撫でしたくらいじゃ見つからない。
 マイクを切ったあとも、彼は興味深くモニターを見守っていた。


 最初の動揺から立ち直った6人は、必死に励まし合いながら、状況を打開する方法について話し合っていた。
 彼らの荷物は、君塚が引き入れる際にうまいことを言って、上の教室に置き去りにされていた。
 今彼らの手元に役に立ちそうな道具は何もないが、それでも彼らは諦めず、ドアに体当たりし、壁を叩き、空気取りの穴から大声で助けを求めていた。
 しかし、地下室のドアは分厚く、コンクリートの壁は厚く、彼を外界から完全に隔離している。空気取りの通路からも、外部に声は届かない。


 やがて自分たちの無力さを悟った6人は、観点を切替て、ここでの過ごし方についての検討を始めた。
 まず彼らは水を6等分して各自に配った。
 それから部屋を8等分にして、その中の6区画は各人のための空間、ひとつはトイレ、残ったひとつは武器庫兼、細田の死体置き場に割り当てた。
 部屋といって、仕切りなどはない。包丁で床に境界線を刻んだだけの、子供の陣地ごっこみたいなものだ。
 それぞれの部屋に収まった各人は、もう語る言葉もなくして膝を抱えた。
 長い沈黙の果てに、ぽつんとだ誰かが呟いた。
 「それにしても、なんで水なんて置いてあったんだろうね。
 だってさ、僕たちに殺し合ってほしいんなら、命を永らえさせるような道具は必要ないだろうに」
 何人かも黙ったまま俯いた。そう、中途半端に残された希望は、いさかいの種になるということに気づいてしまったのだ。
 もし、水を手に入れて3日生き延びることができるならば、4日目以降も生き残りたいを願う気持ちが強まるだろう。例え、他人を押しのけても・・・


 君塚は何も起きないので飽きてしまった。
 そして、監視をビデオ録画に任せて、旧校舎を抜け出して帰宅した。
 さらに方々に電話を掛け、今日閉じ込めた面々が帰宅しない理由をでっち上げることも忘れなかった。
 君塚は閉じ込めた連中の部活の先輩や担任の教師に成りすまして、「部活動で数日泊まり込む」「友達の家に厄介になる」とか、適当な理由を並べ立てた。


 次の日、朝になると君塚は急いで旧校舎に向かった。
 そして、旧校舎に着くと、教室で急いでモニターに見入った。そこには驚くべき光景が映し出されていた。
 閉じ込められた6人は、車座になって談笑していたのだ。
 だが、見ていくうちに君塚は次第に笑みを浮かべ始めた。談笑している彼らの様子は、演技をしているかのようにどこか不自然なのだ。
 「作り笑いか」
 君塚はモニターの前で頬杖をつきながら、成り行きを見守ることにした。
 皆、衣服も髪を乱れだして、目の下には青黒い隈がが絶望の影のように貼りついていた。
 室内の様子で変わったところといえば、武器を入れてあったダンボールが昨日トイレと決められた部屋の隅に移動させられたことぐらい。
 ダンボールの中に入っていた武器は、室内を8等分したうちのひとつ、死体置き場に放り出されていた。
 そう、あのダンボールに用を足すことにしたようだ。
 君塚はしばらく室内の茶番劇を見つめていたが、やがて立ち上がり、どこからか持ち出してきたラジカセをマイクの前にセットした。
 そこから流れ出たのは、当時人気のアイドルが歌うポップスで、スピーカーの音量を上げて、ガンガンに流した。
 6人は突然鳴り響いたアイドルソングを無視しようと努めたが、やがて限界に達した。
 それまで楽しげに笑い話をしていた一人の女の子は、耳を押さえて絶叫し始めた。
 それをきっかけに、他の奴を叫び始め、室内は狂乱に支配された。


 さらに君塚がモニターに注目してみると、一人の生徒の様子がおかしくなった。ある男子生徒が手足を投げだし、床の上で痙攣している。
 みんなが駆け寄って介抱すると、彼は苦しい息の下、必死に「自分のズボンのポットにある薬を飲ませてくれ」と訴えた。
 近くの女子生徒が、その男子生徒のポケットに手を入れた。
 「ないわ、そんなもの!」
 彼はまじまじと女子生徒の顔を見つめ、震える手を自分の左胸にあてがった。やがて、全身が弓なりになり、強張っていき、最後にガクリと力が抜けた。
 彼が息を引き取るまで、意外と時間がかかった。
 そうして、残りは5人になった。
 君塚はここで家に帰った。


 翌朝、旧校舎のモニターを覗くと、なんと2人もの死者が出ていた。
 男子生徒と女子生徒が一人ずつ。ふたつの死骸は、おそらく死亡時の状態のまま転がっていた。
 男子生徒は胸に刺さった包丁を抜きかけて息絶えたらしく、柄に手を絡ませ、苦悶の形相で空を睨んでいた。
 女子生徒もまた、だらしなく開いた口の端に泡を吹き、裏返った白目を血走らせて硬直していた。彼女のそばには飲みかけのペットボトルが倒れて水が零れていた。おそらく中毒死だ。
 残された3人は、男子生徒2人と女生徒1人。その空気には、昨日までは伺えなかった猜疑が満ちていて君塚を喜ばせた。
 「ねえ、どっちが殺したの」と女子生徒が問うと、
 「知らねぇよ。お前の悲鳴で目が覚めたら、こんなことになってたんだよ」
 「僕も同じです」
 そのあとには重苦しい沈黙が満ちた。


 「カタつけようぜ、もう」
 一人の男子生徒は立ち上がり、いつ飛び掛かってきてもおかしくないほど危険な雰囲気を放っていた。
 「二人は死んで、一人は自由だ。それが誰かを決めればいいだけだろ。さっさと解決しようぜ」
 男子生徒がポケットに突っ込んだ手を抜くと、いつの間に武器庫から調達してきたのか、ナックルが嵌められていた。
 「体格差とかあるからさ、ハンデはくれてやるぜ。
 刃物とかわんさかあったよなあ。お前ら好きなの選べよ」
 女子生徒はこの申し出に頷いたが、もう一人の男子生徒は「嫌です」と言った。
 「おめえ、なんて言った?」
 「僕にとって一番不愉快なのは、閉じ込めたヤツの思惑通りに、蟲毒が成されてしまうことです。ですから、殺し合いは断ります」
 「正気か、お前?」
 「あなたは悔しくないんですか?僕らをこんな目に遭わせたあいつの望む通りに行動して」
 なんて穏やかに言い張って、へらへら笑っていた。
 ナックル男はゾッとしたように拳を引っ込め、呟いた。
 「コイツ、狂ってやがる・・・」
 狂いはじめた男は、まだブツブツ呟いていた。
 「僕の感情は僕のものですよ。誰かにくわせるなんて、まっぴら、ごめんです」
 その時、事態を静観していた女子生徒が突然、きゃっと短い悲鳴を上げた。
 彼女の視線の先にあったのは、死体置き場に重ねられた二つの死体だった。いつの間にか現れたのか、死体に取り憑いて腐肉をかじっている数匹の鼠を見つけ、おののいていた。ナックル男は、狂人を解放し、死体に群がるネズミを追い払い始めた。
 何事もなかったかのように、口をつぐんで膝を抱える狂人。
 かじられた死体を見ないようにして、へたりこむ女子生徒。
 そして今日生じた2体の死体を死体置き場に片付け始めるナックル男。
 一通りのことが終わると、密室にはまた、長い停滞が待っていた。

 君塚はこの日は、旧校舎に泊まり込むことにした。
 一度家に帰り、母親が作ったハンバーグを食べ、夜食用に持たせてくれたサンドイッチを持参して、彼は夜の旧校舎に戻って来た。
 深夜の2時を回った頃、女子生徒の悲鳴が聞こえて、君塚は眠りから覚めた。
 急いで画面を見ると、狂人が倒れていて、他の2人が取りすがっていた。体を揺さぶっても反応がない。
 そのうち、女子生徒が、狂人の死体の傍らに転がるペットボトルを手に取った。
 「また毒で死んだってのか」
 「そうね、自殺だったみたい。ほら、見て」
 女子生徒はペットボトルにカッターで刻まれた狂人の遺書らしきものを見つけ、読み上げた。
 「ぼくはにんげんでいたい
 心をくわれることほどおそろしいことはない」
 狂人の死体を片付けた後、二人は部屋の対角に座り込み、ぼんやりと視線をさ迷わせていた。
 結局、これまで人が殺される決定的な瞬間を見逃し続けた君塚は、ここでどうしても生の殺し合いを目撃したかった。
 残った二人の体力も限界だろう。放っておくと、殺し合いをする前に衰弱死する可能性も出てくる。
 あれこれと頭を悩ませた挙句、彼はシンプルな解決方法を見つけた。
 君塚は、スピーカーのスイッチを入れ、彼らに話しかけた。
 「今、空気穴の出口を塞いだ。空気が切れる前に決着を付けろよ」
 ナックル男がふらつく足で面倒くさそうに立ち上がった。
 「なあ、どうする?」
 女子生徒は無言のまま、なんとか立ち上がり、おぼつかない足取りで足元に落ちていたカッターナイフを拾った。
 突然モニターの光が消えて、真っ暗で何も見えない。
 君塚は動転し、電源や配線を確認した。調べている最中も、ヘッドフォンからは悲鳴は物音が聞こえてきて、事態を把握できずにおいてゆかれることに焦った。
 混乱に震えながら歩き回るうちに閃いた。地下室の唯一の光源、裸電球が切れたんだろう。
 君塚は音を頼りに室内を探ろうと、ヘッドフォンを強く耳に押し付けた。
 ついさっきまで争う物音が聞こえて来た室内は静かだったが、かすかに呼吸音が聞こえる。
 君塚は、ついに蟲毒が完成したのだ、と確信した。
 すぐさま地下室に向かおう、として踏みとどまった。君塚はふと、今まで録画していたビデオの存在を思い出したのだ。


 さて、君塚はどうしたと思う?
  1. ビデオを確認した→日野7話目エンディング№30:かくれんぼ
  2. すぐに地下室に向かった
 結局、いても立ってもいられなくなって、君塚はすぐさま地下室に向かったんだ。電灯が消えていることを思い出して懐中電灯を握りしめたのが最後の理性だった。
 あとは、喜びをこらえきれずに奇声を上げながら、弾む足取りで廊下を駆け抜けた。
 長い年月をかかってこしらえた、自分だけの蟲毒なんだ!


 君塚はついに地下室の扉の前に行きついた。
 開錠し、ドアを開くと予想よりずっとおぞましい悪臭が吹き付けて来た。複数の人間が分泌した、垢、汗、糞尿。何よりも強いのは腐敗臭だ。
 その臭いに耐え切れず、君塚はまず吐いた。そして、めまいと戦いながら階段を降りた。懐中電灯で足元を照らし、一方でモップの柄を慎重に構えながら。


 「なあ、お前、生き残ったのはどちらだと思う?」
  1. 男→日野7話目エンディング№31:蟲毒の地下室
  2. わからない
 君塚は何となく女子生徒が生き残ったような気がしていた。
 ナックル男は階段を降り切ったところで息絶えていた。喉がぱっくりと開いて、夥しい血があふれ出し、床に沼を作っていた。
 暗闇の先から、さっき聞こえた異様な呼吸音が響いてくる。
 懐中電灯を向けると、光の中に女子生徒のシルエットが浮かび上がった。
 汚れた制服を着て腕をだらりと垂らし、危なっかしい足取りで立っていた。乱れた髪の毛の間から、大きく開いて獣のように呼吸をしている口元が見えた。
 その姿を見た瞬間、君塚は女子生徒こそが蟲毒だと確信した。
 「おい、ついてこい」
 命じて階段を昇りだすと彼女はどこまでも従順に、のたのたとあとをついてきた。


 君塚は旧校舎の教室で彼女に用意していたコートを着せ、気分が悪くなった友人を介抱するふりをしながら、タクシーで家に連れて帰った。
 とりあえず部屋に連れ込んで、そこで改めて彼女の様子を確認した。
 閉じ込められる前は、長い黒髪の美しい賢そうな少女だった。それが、返り血は汚物や自らの体液にまみれ、腐臭を放ち、重心を安定させることもできずに始終ふらふらと揺れている。
 顎は弛緩したまま涎を垂れ流し、まぶたの中身は白目に裏返ったまま戻らない。人間にあるべき何かを失った無残な姿だ。
 君塚が暴いた地下室の面々がしでかした罪のうち、彼女の罪状は最も重いものだった。恋人を死に追いやった者だ。自らが手を下し、恋人を死に追いやったんだ。
 さらに、男子生徒が心臓発作で死んだ時、彼のポケットに手を突っ込み、「ない」と断言したのは彼女だった。どういうわけか、その薬は彼女のポケットから発見されたが、薬を隠せは、苦も無く一人を葬り去れるとでも考えたのだろう。
 例のビデオにも、男子生徒の胸を刺し、女子生徒のペットボトルに毒薬を仕込み、見えない毒を次々と吸収していく彼女の姿が記録されていた。
 君塚は彼女の変貌は蟲毒によるものだと信じ、呪法の達成に満足した。そして、蟲毒と化した彼女をどう使おうかと、思案しだした。
 蟲毒はおどろおどろしい方法で作られるが、意外なことに人に利益をもたらす魔物だ。
 飼っているだけで、富が転がり込むと言われているが、定期的に生贄を捧げないと、飼い主を食ってしまう。
 だから大抵は、自分の幸福のためというよりも、その習性を利用して、呪いたい相手に送りつけるために蟲毒を作り出すのだ。
 少量の金品とともに相手に送りるつけると、蟲毒は相手を新しい飼い主として取りつく。
 相手はまさか、贈り物にくっついてきた生物が蟲毒だなんて思いもしないから、気味悪がって逃がしてしまうだろう。
 あとは、蟲毒の恩恵を受けて「やたらツイている」と喜ぶのもつかの間、生贄をもらえず、飢えた蟲毒に食われてしまう。


 「君塚は彼女をどう使ったと思う?」
  1. 利益を貪ろうと考えた→日野7話目エンディング№33:新月
  2. 他者を呪おうと考えた
 虫マニアで呪術フェチの君塚は、当然蟲毒の正しい使い方も知っていた。
 しかし、君塚には呪いたい人間などいなかった。そもそも他人を空気か何かのように、なんとも思っていないだけだ。誰も憎まず、誰も愛さず、一切心を動かされない。そんな人間だから、地下室に閉じ込めて共食いを平然と眺めたりもできた。
 でも、君塚はせっかく苦労して作り上げた蟲毒なんだから、誰かを呪ってみようかな、と実に軽い気持ちで実行に移すことにした。
 今の主人が君塚である以上、あんまり長く手元に置いていると、腹を空かせた蟲毒に食われてしまうかもしれない。君塚は、早々に手放してしまおうと思い、相手に押し付ける方法を探した。
 いきなり金品を押し付けて不自然でない相手、荷物としては重過ぎる蟲毒の送付方法・・・
 前者はともかく、蟲毒を送る方法は厄介な問題だった。何せ、正気を失い、白目を剥き、汚れに汚れ切った少女を、さりげなく相手に譲渡しなければならないのだから。
 君塚がひねり出した策は、一つしかなかった。君塚は10日ほど母親の実家に一人旅をすることにした。


 当日の朝、母親に君塚は高価な誕生日プレゼントを渡した。
 母親はとても喜んで、いつものように美味しい朝ごはんを食べさせて、美味しい弁当を持たせ、玄関先まで見送りに来た。
 「行ってきます。帰ってきたら部屋を掃除するから、中は見ないで」
 そして君塚は出発した。君塚の部屋にはもちろん人間蟲毒が潜んでいる君塚の家には、人間蟲毒と母親だけが残された。


 「その後はどうなったかって?
 ははは、実は俺もこの先の話は知らないんだ。悪いな、俺の話はこれで終わりだ。
 それより、みんな遅くまで残ってくれてありがとう。これは俺からの差し入れだ」
 そう言って日野は、部室に備え付けてある冷蔵庫から、缶ジュースを出して机の上に並べた。坂上は進行役だから、皆が好きなのを取るのを見計らって、最後に残ったものを手に取った。
 (うわあ、やっぱりおしるこドリンクか)
 坂上は、あまり飲む気がしなかったので、手を付けずそのまま鞄にしまった。
 「じゃあ、これで七不思議の集会はお開きにする」
 日野の言葉を合図に、皆は口々に別れの挨拶を述べて、部室を後にしていった。
 会合の後片付けをしていると、日野が話しかけてきた。
 「どうだ坂上、今日の成果は」
 「はい、それぞれに面白くて、個性的で、良かったと思います。普通の七不思議からちょっと外れた感じで、それを記事に活かせればいいですね」
 「期待してるぞ」
 「あ、日野先輩の話をすごかったですよ。
 それにしても、君塚は最低なヤツですね。命をおもちゃにして、最後には母親まで・・・
 どうして母親を選んだんでしょうかね?」
 「そりゃあ、それしか思いつかなかったからだろう?父親は出張中だったそうだし」
 「やっぱり最低ですよ」
 「最低、ね。ははは、言い返せないな」
 「え?言い返せない?」
 「後は俺が戸締りをしておくから、お前はもう帰れ」
 坂上は、日野の言葉に甘えて部室を後にした。


 「坂上君」
 下駄箱から靴を出し、履き替えようとしたところで、荒井に声を掛けられた。
 「君のことを待っていました。帰りながらちょっと話しましょう」
 坂上たちはすっかり暗くなった帰り道を歩いた。
 「話って何でしょうか?」
 「あなた、さっきの缶ジュースは飲まなかったでしょうね?」
 「ええ、まだ飲んでいませんが」
 「そうですか、良かった。
 僕は、日野さんの蟲毒の話のその後を知っているんです」
 「本当ですか?」
 「はい、実の母を蟲毒に差し出した後も、蟲毒は彼に取り憑き続けました。そして、今でも生贄を要求しているのですよ。
 あなたはご存じないようでしょうか、日野さんのお母様は1か月ほど前に、ひどい亡くなり方をなさったのだそうですよ。全身を獣に食いちぎられたかのような、無残の姿でね」
 「まさか・・・」
 「そう、君塚なんて偽名をいいところですよ。
 ところであなた、その鞄の中の缶ジュースは、さっさと捨てたほうがいいですよ。
 僕はさっき福沢さんが、美味しそうに缶ジュースを飲んでいるところを見ました。今頃どうなっていることやら・・・
 おっと、もう駅ですね。それでは僕はこれで失礼します」
 そう言うと、荒井は駅のゴミ箱に日野からもらった缶ジュースを捨てて、改札へと消えていった。

  
 日野7話目エンディング№34:蟲毒の呪い
 CGギャラリー:49/124
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日野7話目エンディング№33:新月


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 シナリオ:蟲毒の地下室


 6人目の話を聞き終え、これからどうしようと思っていると、ドアを開けて日野が入って来た。
 「お疲れ」
 「あ、日野先輩、お疲れ様です」
 「どうだ、取材は無事に終わったか?」
 「はい、ここにいらっしゃるみなさんの分は聞けました」
 「どれ、見せて見ろ」
 そう言って、日野は坂上の取材ノートを手に取り、目を通し始めた。
 「へえ、ずいぶん面白そうな話をしていたんだな」
 「そうですね、みなさん、いろんなお話をご存じで」
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 「あ、でも、実はまだ7人目の方がいらしてないんですよ」
 「そうか」
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 「あ、あれ?・・・すまん、6人しか声を掛けてなかったようだ」
 「ええ!じゃあ、どうすれば・・・」
 「そんな心配そうな顔をするなよ、坂上。
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 「今から俺が話すのは、ある呪いの話だ。
 みんな、蟲毒は知っているか?
 蟲毒の作り方には諸説あるが、複数の動物を箱や甕などの密閉空間に入れ、それを地下に埋め、共喰いの果てに生き残った1匹を用いる、という大まかな流れは変わらない。
 箱に閉じ込められる動物を種類は、サソリ、ヘビ、ヤモリ、蝦蟇、ムカデ、クモなんかが一般的だ。共通点はみんな毒を持った生き物だというところか。
 互いの毒を喰らいあううちに、最高の強まった毒性が生き残りの一匹に宿り、人を呪うにはもってこいの生物が誕生するんだそうだ。
 だがな、実は毒性のない動物でも蟲毒は可能らしい。その場合は、殺されることや、喰われることへの怨念が積もり積もって、生き残った一体に強い呪いのパワーが宿るというわけだ」


「かつて、この学校のある男子生徒が蟲毒を試したいとい衝動に取り憑かれた。名を仮に君塚としておこう。
 君塚は充分に恵まれていたから、誰かを呪ったり自分を幸せにするために蟲毒を利用しようと考えていたわけではない。蟲毒という呪法に対する、漠然とした憧れや好奇心に取り憑かれたのさ」


 君塚は小さい頃から、自分より弱い生物が苦しむ様子を観察するのが好きだった。
 弱ったカマキリを蟻の大群に襲わせたり、蜘蛛の巣にかかった蝶が食われる様子を観察したり、そういう弱い生き物を見て自分が優越感を得ることだけが、唯一の心の慰めだった。
 そんな彼が、蟲毒という呪法が存在することを知り、それに執着したのは、必然ともいえた。
 自分の意思に反して、真っ暗な甕に閉じ込められ、飢餓に駆り立てられて互いを喰らい合う哀れな動物たち。そんな凄惨な状況を想像するだけで、彼は眠れないほど興奮した。
 その上、共喰いのたびに毒や恨みが勝利者の体内に蓄積されて、最終的には憎悪のいかたまりのような生物が完成する、という図式にも、美学を感じて止まなかった。
 そして、長い年月、そんな妄想を弄ぶうちに、自分の手で蟲毒を実現させてみたいという欲求に遂に勝てなくなった。
 しかし、君塚は虫などを集めるうちに実につまらない行為だということに気がついた。
 まず箱を地中に埋めて結果を待つ以上、呪法が成就される過程をその目で見ることができないことが不満だった。
 それに、うまいこと蟲毒の生物を誕生させたところで、昆虫や両生類の毒性や恨みなどたかが知れている。
 そして彼は、どうせなら高度で複雑な感情を持つ生物で蟲毒の実験を行い、その一部始終をこの目で見るべきだ、という妄念に取り憑かれてしまった。
 そんな生き物は、ひとつしか存在しない。そう、人間だ。
 君塚は、おそらく一度きりしか行うことができないであろう大切な実験のために、2年の歳月をかけて慎重に準備した。
 人を材料とした蟲毒を行おうと思い立ったのが、1年生の春。彼が目をつけた場所は、この学校の旧校舎だった。
 そして、彼は何度が下調べをしているうちに、人を閉じ込めるのに持ってこいの地下室を見つけた。
 そして、3年生の夏休み直前になって、それはようやく実行に移された。


 夏休みに入ったばかりの蒸し暑い日、君塚は学校に7人の生徒を呼び出した。
 集められたのは5人の男子生徒と、2人の女生徒。
 その日まで互いの顔すら知らなかった7人には、ある共通点があった。それは、根っから怖い話が好きだ、ということだ。
 君塚に百物語をするのにぴったりの場所があると誘われて、彼らは旧校舎へと向かった。


 君塚は旧校舎の階段の先にある地下室へと、7人を案内した。
 しかし、最後の一人が地下室への階段を降り切ったところで、背後で鉄製のドアがバタンと閉まり、無情な掛け金の音が地下室に響き渡った。
 「おい、君塚、なにやってんだよ!」
 「鍵がかかっている!」
 7人はあらゆる手段を試した後、ようやく逃げ場がないことに気づいた。
 改めて室内を見ると、むき出しのコンクリートが四方を固めているだけの、実にそっけない部屋だ。照明は天井の中央に裸電球がぽつんと点いているだけで、四隅が翳るくらいに頼りない。
 他にあるものといえば、部屋の隅にダンボールが一箱。壁が分厚いこと、ドアが頑丈なこと。
 脱出口にはならないものの、空気取りの穴が開いていることなどを確認した彼らは、藁にも縋る思いでダンボールを開けた。
 まず水。7人で分けると3日持つか持たないかの量だった。
 あとは、包丁、ナイフ、ボウガン、縄、アイスピック、ノコギリ、釘、トンカチ、鉄パイプ、毒入りのビン、鎌、カッター、ナックル、竹刀という武器の数々。
 その中の一人が細い釘を拾い上げ、階段を上がり、ドアの前にしゃがみこんだ。そして、鍵穴に釘を差し込み、ピッキングを試みた。
 「ぎゃ!!!」
 ヒステリックな絶叫をあげたかと思うと、体が不自然にのけぞり、痙攣しながら、階段を転げ落ちた。
 駆け寄った6人が見たのは、妙な角度に首がねじ曲がった男子生徒の姿だった。
 混乱を制するかのように、どこからともなく声が響いてきた。
 「鍵穴には電流が流れているんだ。触らない方がいい」
 それは、他ならぬ君塚の声だった。よく見れば、天井の一辺にスピーカーが供えつけられていて、声はそこから聞こえて来た。
 君塚は、人間を用いた蟲毒を思いつき、ここにいる人間で実践しているのだという、自分の野望を語って聞かせた。
 「蟲毒は憎悪を喰らいあって膨らませることで完成される呪法なのだから、君達には本気で殺し合ってもらわなくてはならない。
 誰か最後のひとりになるまでに、ドアを開けるつもりはない。様子は監視カメラとマイクで常に探っている。グッドラック」


 通信が切れそうになったので6人は一斉に騒ぎ立てたが、君塚は沈黙を通した。
 しかし、そのうちの一人が、口にした疑問に君塚は答えた。
 「なあ、どうして俺たちなんだ?」
 「蟲毒は毒や恨みなどの負のエネルギーを、互いに食わせることによって増幅させ、吸収させ、ひとつに集めることで完成される。
 ならば、人間でも同じく強い毒性を持つ者がいいだろう。だから君達を選んだんだ」
 「どういうことよ!」
 「君たちの共通点はな、犯罪者であることだ。万引きした者、カンニングした者、嘘ばかりついている者、親を欺いた者、親友を裏切った者、喧嘩で相手に重傷を負わせた者、恋人を死に追い込んだ者・・・」
 君塚はそう言うと、マイクを切った。


 君塚は6人の監視を行うため、地下室の上の教室に機材を持ち込んでいた。機材の一式は教卓の影にうまく隠し、配線も巧みに瓦礫になじませたので、深夜の見張りが懐中電灯でひと撫でしたくらいじゃ見つからない。
 マイクを切ったあとも、彼は興味深くモニターを見守っていた。


 最初の動揺から立ち直った6人は、必死に励まし合いながら、状況を打開する方法について話し合っていた。
 彼らの荷物は、君塚が引き入れる際にうまいことを言って、上の教室に置き去りにされていた。
 今彼らの手元に役に立ちそうな道具は何もないが、それでも彼らは諦めず、ドアに体当たりし、壁を叩き、空気取りの穴から大声で助けを求めていた。
 しかし、地下室のドアは分厚く、コンクリートの壁は厚く、彼を外界から完全に隔離している。空気取りの通路からも、外部に声は届かない。


 やがて自分たちの無力さを悟った6人は、観点を切替て、ここでの過ごし方についての検討を始めた。
 まず彼らは水を6等分して各自に配った。
 それから部屋を8等分にして、その中の6区画は各人のための空間、ひとつはトイレ、残ったひとつは武器庫兼、細田の死体置き場に割り当てた。
 部屋といって、仕切りなどはない。包丁で床に境界線を刻んだだけの、子供の陣地ごっこみたいなものだ。
 それぞれの部屋に収まった各人は、もう語る言葉もなくして膝を抱えた。
 長い沈黙の果てに、ぽつんとだ誰かが呟いた。
 「それにしても、なんで水なんて置いてあったんだろうね。
 だってさ、僕たちに殺し合ってほしいんなら、命を永らえさせるような道具は必要ないだろうに」
 何人かも黙ったまま俯いた。そう、中途半端に残された希望は、いさかいの種になるということに気づいてしまったのだ。
 もし、水を手に入れて3日生き延びることができるならば、4日目以降も生き残りたいを願う気持ちが強まるだろう。例え、他人を押しのけても・・・


 君塚は何も起きないので飽きてしまった。
 そして、監視をビデオ録画に任せて、旧校舎を抜け出して帰宅した。
 さらに方々に電話を掛け、今日閉じ込めた面々が帰宅しない理由をでっち上げることも忘れなかった。
 君塚は閉じ込めた連中の部活の先輩や担任の教師に成りすまして、「部活動で数日泊まり込む」「友達の家に厄介になる」とか、適当な理由を並べ立てた。


 次の日、朝になると君塚は急いで旧校舎に向かった。
 そして、旧校舎に着くと、教室で急いでモニターに見入った。そこには驚くべき光景が映し出されていた。
 閉じ込められた6人は、車座になって談笑していたのだ。
 だが、見ていくうちに君塚は次第に笑みを浮かべ始めた。談笑している彼らの様子は、演技をしているかのようにどこか不自然なのだ。
 「作り笑いか」
 君塚はモニターの前で頬杖をつきながら、成り行きを見守ることにした。
 皆、衣服も髪を乱れだして、目の下には青黒い隈がが絶望の影のように貼りついていた。
 室内の様子で変わったところといえば、武器を入れてあったダンボールが昨日トイレと決められた部屋の隅に移動させられたことぐらい。
 ダンボールの中に入っていた武器は、室内を8等分したうちのひとつ、死体置き場に放り出されていた。
 そう、あのダンボールに用を足すことにしたようだ。
 君塚はしばらく室内の茶番劇を見つめていたが、やがて立ち上がり、どこからか持ち出してきたラジカセをマイクの前にセットした。
 そこから流れ出たのは、当時人気のアイドルが歌うポップスで、スピーカーの音量を上げて、ガンガンに流した。
 6人は突然鳴り響いたアイドルソングを無視しようと努めたが、やがて限界に達した。
 それまで楽しげに笑い話をしていた一人の女の子は、耳を押さえて絶叫し始めた。
 それをきっかけに、他の奴を叫び始め、室内は狂乱に支配された。


 さらに君塚がモニターに注目してみると、一人の生徒の様子がおかしくなった。ある男子生徒が手足を投げだし、床の上で痙攣している。
 みんなが駆け寄って介抱すると、彼は苦しい息の下、必死に「自分のズボンのポットにある薬を飲ませてくれ」と訴えた。
 近くの女子生徒が、その男子生徒のポケットに手を入れた。
 「ないわ、そんなもの!」
 彼はまじまじと女子生徒の顔を見つめ、震える手を自分の左胸にあてがった。やがて、全身が弓なりになり、強張っていき、最後にガクリと力が抜けた。
 彼が息を引き取るまで、意外と時間がかかった。
 そうして、残りは5人になった。
 君塚はここで家に帰った。


 翌朝、旧校舎のモニターを覗くと、なんと2人もの死者が出ていた。
 男子生徒と女子生徒が一人ずつ。ふたつの死骸は、おそらく死亡時の状態のまま転がっていた。
 男子生徒は胸に刺さった包丁を抜きかけて息絶えたらしく、柄に手を絡ませ、苦悶の形相で空を睨んでいた。
 女子生徒もまた、だらしなく開いた口の端に泡を吹き、裏返った白目を血走らせて硬直していた。彼女のそばには飲みかけのペットボトルが倒れて水が零れていた。おそらく中毒死だ。
 残された3人は、男子生徒2人と女生徒1人。その空気には、昨日までは伺えなかった猜疑が満ちていて君塚を喜ばせた。
 「ねえ、どっちが殺したの」と女子生徒が問うと、
 「知らねぇよ。お前の悲鳴で目が覚めたら、こんなことになってたんだよ」
 「僕も同じです」
 そのあとには重苦しい沈黙が満ちた。


 「カタつけようぜ、もう」
 一人の男子生徒は立ち上がり、いつ飛び掛かってきてもおかしくないほど危険な雰囲気を放っていた。
 「二人は死んで、一人は自由だ。それが誰かを決めればいいだけだろ。さっさと解決しようぜ」
 男子生徒がポケットに突っ込んだ手を抜くと、いつの間に武器庫から調達してきたのか、ナックルが嵌められていた。
 「体格差とかあるからさ、ハンデはくれてやるぜ。
 刃物とかわんさかあったよなあ。お前ら好きなの選べよ」
 女子生徒はこの申し出に頷いたが、もう一人の男子生徒は「嫌です」と言った。
 「おめえ、なんて言った?」
 「僕にとって一番不愉快なのは、閉じ込めたヤツの思惑通りに、蟲毒が成されてしまうことです。ですから、殺し合いは断ります」
 「正気か、お前?」
 「あなたは悔しくないんですか?僕らをこんな目に遭わせたあいつの望む通りに行動して」
 なんて穏やかに言い張って、へらへら笑っていた。
 ナックル男はゾッとしたように拳を引っ込め、呟いた。
 「コイツ、狂ってやがる・・・」
 狂いはじめた男は、まだブツブツ呟いていた。
 「僕の感情は僕のものですよ。誰かにくわせるなんて、まっぴら、ごめんです」
 その時、事態を静観していた女子生徒が突然、きゃっと短い悲鳴を上げた。
 彼女の視線の先にあったのは、死体置き場に重ねられた二つの死体だった。いつの間にか現れたのか、死体に取り憑いて腐肉をかじっている数匹の鼠を見つけ、おののいていた。ナックル男は、狂人を解放し、死体に群がるネズミを追い払い始めた。
 何事もなかったかのように、口をつぐんで膝を抱える狂人。
 かじられた死体を見ないようにして、へたりこむ女子生徒。
 そして今日生じた2体の死体を死体置き場に片付け始めるナックル男。
 一通りのことが終わると、密室にはまた、長い停滞が待っていた。

 君塚はこの日は、旧校舎に泊まり込むことにした。
 一度家に帰り、母親が作ったハンバーグを食べ、夜食用に持たせてくれたサンドイッチを持参して、彼は夜の旧校舎に戻って来た。
 深夜の2時を回った頃、女子生徒の悲鳴が聞こえて、君塚は眠りから覚めた。
 急いで画面を見ると、狂人が倒れていて、他の2人が取りすがっていた。体を揺さぶっても反応がない。
 そのうち、女子生徒が、狂人の死体の傍らに転がるペットボトルを手に取った。
 「また毒で死んだってのか」
 「そうね、自殺だったみたい。ほら、見て」
 女子生徒はペットボトルにカッターで刻まれた狂人の遺書らしきものを見つけ、読み上げた。
 「ぼくはにんげんでいたい
 心をくわれることほどおそろしいことはない」
 狂人の死体を片付けた後、二人は部屋の対角に座り込み、ぼんやりと視線をさ迷わせていた。
 結局、これまで人が殺される決定的な瞬間を見逃し続けた君塚は、ここでどうしても生の殺し合いを目撃したかった。
 残った二人の体力も限界だろう。放っておくと、殺し合いをする前に衰弱死する可能性も出てくる。
 あれこれと頭を悩ませた挙句、彼はシンプルな解決方法を見つけた。
 君塚は、スピーカーのスイッチを入れ、彼らに話しかけた。
 「今、空気穴の出口を塞いだ。空気が切れる前に決着を付けろよ」
 ナックル男がふらつく足で面倒くさそうに立ち上がった。
 「なあ、どうする?」
 女子生徒は無言のまま、なんとか立ち上がり、おぼつかない足取りで足元に落ちていたカッターナイフを拾った。
 突然モニターの光が消えて、真っ暗で何も見えない。
 君塚は動転し、電源や配線を確認した。調べている最中も、ヘッドフォンからは悲鳴は物音が聞こえてきて、事態を把握できずにおいてゆかれることに焦った。
 混乱に震えながら歩き回るうちに閃いた。地下室の唯一の光源、裸電球が切れたんだろう。
 君塚は音を頼りに室内を探ろうと、ヘッドフォンを強く耳に押し付けた。
 ついさっきまで争う物音が聞こえて来た室内は静かだったが、かすかに呼吸音が聞こえる。
 君塚は、ついに蟲毒が完成したのだ、と確信した。
 すぐさま地下室に向かおう、として踏みとどまった。君塚はふと、今まで録画していたビデオの存在を思い出したのだ。


 さて、君塚はどうしたと思う?
  1. ビデオを確認した→日野7話目エンディング№30:かくれんぼ
  2. すぐに地下室に向かった
 結局、いても立ってもいられなくなって、君塚はすぐさま地下室に向かったんだ。電灯が消えていることを思い出して懐中電灯を握りしめたのが最後の理性だった。
 あとは、喜びをこらえきれずに奇声を上げながら、弾む足取りで廊下を駆け抜けた。
 長い年月をかかってこしらえた、自分だけの蟲毒なんだ!


 君塚はついに地下室の扉の前に行きついた。
 開錠し、ドアを開くと予想よりずっとおぞましい悪臭が吹き付けて来た。複数の人間が分泌した、垢、汗、糞尿。何よりも強いのは腐敗臭だ。
 その臭いに耐え切れず、君塚はまず吐いた。そして、めまいと戦いながら階段を降りた。懐中電灯で足元を照らし、一方でモップの柄を慎重に構えながら。


 「なあ、お前、生き残ったのはどちらだと思う?」
  1. 男→日野7話目エンディング№31:蟲毒の地下室
  2. わからない
 君塚は何となく女子生徒が生き残ったような気がしていた。
 ナックル男は階段を降り切ったところで息絶えていた。喉がぱっくりと開いて、夥しい血があふれ出し、床に沼を作っていた。
 暗闇の先から、さっき聞こえた異様な呼吸音が響いてくる。
 懐中電灯を向けると、光の中に女子生徒のシルエットが浮かび上がった。
 汚れた制服を着て腕をだらりと垂らし、危なっかしい足取りで立っていた。乱れた髪の毛の間から、大きく開いて獣のように呼吸をしている口元が見えた。
 その姿を見た瞬間、君塚は女子生徒こそが蟲毒だと確信した。
 「おい、ついてこい」
 命じて階段を昇りだすと彼女はどこまでも従順に、のたのたとあとをついてきた。


 君塚は旧校舎の教室で彼女に用意していたコートを着せ、気分が悪くなった友人を介抱するふりをしながら、タクシーで家に連れて帰った。
 とりあえず部屋に連れ込んで、そこで改めて彼女の様子を確認した。
 閉じ込められる前は、長い黒髪の美しい賢そうな少女だった。それが、返り血は汚物や自らの体液にまみれ、腐臭を放ち、重心を安定させることもできずに始終ふらふらと揺れている。
 顎は弛緩したまま涎を垂れ流し、まぶたの中身は白目に裏返ったまま戻らない。人間にあるべき何かを失った無残な姿だ。
 君塚が暴いた地下室の面々がしでかした罪のうち、彼女の罪状は最も重いものだった。恋人を死に追いやった者だ。自らが手を下し、恋人を死に追いやったんだ。
 さらに、男子生徒が心臓発作で死んだ時、彼のポケットに手を突っ込み、「ない」と断言したのは彼女だった。どういうわけか、その薬は彼女のポケットから発見されたが、薬を隠せは、苦も無く一人を葬り去れるとでも考えたのだろう。
 例のビデオにも、男子生徒の胸を刺し、女子生徒のペットボトルに毒薬を仕込み、見えない毒を次々と吸収していく彼女の姿が記録されていた。
 君塚は彼女の変貌は蟲毒によるものだと信じ、呪法の達成に満足した。そして、蟲毒と化した彼女をどう使おうかと、思案しだした。
 蟲毒はおどろおどろしい方法で作られるが、意外なことに人に利益をもたらす魔物だ。
 飼っているだけで、富が転がり込むと言われているが、定期的に生贄を捧げないと、飼い主を食ってしまう。
 だから大抵は、自分の幸福のためというよりも、その習性を利用して、呪いたい相手に送りつけるために蟲毒を作り出すのだ。
 少量の金品とともに相手に送りるつけると、蟲毒は相手を新しい飼い主として取りつく。
 相手はまさか、贈り物にくっついてきた生物が蟲毒だなんて思いもしないから、気味悪がって逃がしてしまうだろう。
 あとは、蟲毒の恩恵を受けて「やたらツイている」と喜ぶのもつかの間、生贄をもらえず、飢えた蟲毒に食われてしまう。


 「君塚は彼女をどう使ったと思う?」
  1. 利益を貪ろうと考えた
  2. 他者を呪おうと考えた
 君塚は呪法についての知識はあっても、実際蟲毒を作ってどうこうというところに興味がなく、使い方についてはあまり詳しくなかった。
 君塚は蟲毒が飼い主に恩恵をもたらすというところまでは知っていた。逆に言えば、それしか知らなかった。
 部屋の片隅で蟲毒である彼女を飼いだした君塚の元には、その日のうちから吉報が金銭を伴って押し寄せるようになった。
 懸賞が当たる、小遣いをたんまりもらえる、大金を拾う、いらないものが高く売れる・・・高校生という身分をはみ出さない、最大限の恩恵にあずかった。
 だが君塚の知らないところで警告は成されていた。部屋の隅でダンボールに入れられ、シーツをかぶせられ、いつも膝をかかえている蟲毒の白濁した眼球がゆっくりと回転していることに。
 白目が下方にぐるりと回って、情報から徐々に表れてくるのは今度は一面の黒だ。眼球の半分が真っ黒に塗りつぶされている・・・
 要するに月の満ち欠けのようなものだ。一面の白目が満月=蟲毒が満腹であることを表している、そして上のほうから黒い色彩がにじみ出してきて、上半分が黒、下半分が白という状態が半月だ。そして、まぶたの中身全体が真っ黒に染まると新月=デッドリミットだ。
 君塚は、蟲毒が金銭の代わりに生贄を要求することに気づけたのだろうか。人間を食ってできた人間の蟲毒には、人間の生贄を捧げるべきだろうから、蟲毒と共に生きる道を選んだのなら、富を得ながらも、血濡れらた人生を歩んだだろう。
 あるいは蟲毒を捨てようと試みたか。だが蟲毒を捨てるには条件があって、それまで蟲毒によって得たすべての富と一緒に捨てなければならない。いわゆる振り出しに戻るというものだ。
 あと、殺人者にも貧乏人にはならずに済む選択肢がある。富を捨てる必要もなく、蟲毒と縁を切る唯一の方法だ。そう、蟲毒を殺せばいい。
 だが、これも単純なやり方ではだめだ。蟲毒を殺すには、蟲毒を食べることだ。たとえ相手が元人間であっても、食えば殺せる、縁が切れる。


 「さて、君塚はどれを選んだのかね。実は俺は、その後を知らないのさ。そんなわけで俺の話は終わりだ。
 皆、こんな遅くまでつき合わせて悪かったな。いい記事を作ることで返礼するから、楽しみにしていてくれよ。
 坂上、お前もご苦労だったな。とはいえ、編集やら執筆はら、これからが本番といってもいいんだがな。がんばれよ。
 それじゃあ、くれぐれも気を付けて帰れよ!」
 皆を見送り、戸締りをしながら、坂上は、今日の日野は君塚という人に重なるところがあると感じた。実は君塚とは日野自身のことで、地下室を舞台にした蟲毒は実際に行われていて、人間蟲毒は誕生し、今もなお富の代償に生贄を求めているんじゃないだろうか、と失礼なことを思う坂上だった。


 戸締りを済ませ、消灯した廊下を坂上が歩いていると、恐怖が一気に膨れ上がった。
 膨らむ妄想に押しつぶされそうになり、恐る恐る振り返ると、さっき後にした部室が見えた。
 校庭に面した窓から誰かが覗いた気がした。一瞬だったが、日野の姿のようだった。
 坂上が再び前を向くと、何かが立ちふさがっていた。
 黒い果実のようなものが浮かんでおり、パチリとまばたきする。
 それは目だ。だとすると、視界いっぱいに広がるこの青白いものは肌であり、垂れ落ちている長い束は髪なのだろう。
 二つの黒い目がはっきりと見てとれた。まぶたいっぱいになみなみと満たされた漆黒。その下まぶたギリギリのところに一筋だけ白い線が走っている。
 (これは日野先輩の行っていた、蟲毒の瞳・・・新月)
 少女の眼球が下方に回転し、底に残っていた一筋の白が消えようとしている。それは死を宣告する秒針のように見えた。
 (逃げなくっちゃ・・・)
 その刹那、カチリと秒針の時を刻む音が聞こえた気がした。

  
 日野7話目エンディング№33:新月
 CGギャラリー:49/124
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ペンション“シュプール”編 17章:皆殺しへの恐怖(←15章A)

 

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ペンション“シュプール”編 16章:襲われた美樹本(←15章A)

 

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ペンション“シュプール”編 15章:決死隊

 

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日野7話目エンディング№31:蟲毒の地下室


 今日のアパシー学校であった怖い話1995特別編はどうかな?


 4週目開始!
 1人目は新堂誠を選択→シナリオ:戦いのゴングがなって→新堂エンディング№19~24を見る
 2人目は荒井昭二を選択→シナリオ:戦下の友情→荒井エンディング№08~10を見る
 3人目は風間望を選択→シナリオ:かぐわしきにおひ→風間エンディング№01:かぐわしきにおひを見る
 4人目は福沢玲子を選択→シナリオ:歪んだ被写体→福沢エンディング№8~11を見る
 5人目は岩下玲子を選択→シナリオ:黒と赤の法悦→岩下エンディング№20~24を見る
 6人目は、細田友春を選択して、シナリオ:トイレの友情→細田エンディング№15:裏切り者はどちらかを見る


 新堂エンディング№22:強さ荒井エンディング№10:戦下の友情風間エンディング№01:かぐわしきにおひ細田エンディング№15:裏切り者はどちらかを見て、7話目に行く。


 シナリオ:蟲毒の地下室


 6人目の話を聞き終え、これからどうしようと思っていると、ドアを開けて日野が入って来た。
 「お疲れ」
 「あ、日野先輩、お疲れ様です」
 「どうだ、取材は無事に終わったか?」
 「はい、ここにいらっしゃるみなさんの分は聞けました」
 「どれ、見せて見ろ」
 そう言って、日野は坂上の取材ノートを手に取り、目を通し始めた。
 「へえ、ずいぶん面白そうな話をしていたんだな」
 「そうですね、みなさん、いろんなお話をご存じで」
 「これならいい記事ができそうじゃないか」
 「あ、でも、実はまだ7人目の方がいらしてないんですよ」
 「そうか」
 「日野、お前ちゃんと7人に声を掛けたのかよ?」と新堂が指摘すると、日野は部室にいる人たちの顔を見ながら指を折って人数を数えだした。
 「あ、あれ?・・・すまん、6人しか声を掛けてなかったようだ」
 「ええ!じゃあ、どうすれば・・・」
 「そんな心配そうな顔をするなよ、坂上。
 よし、こうなったら俺が責任を取って、7話目を話してやろう」


 「今から俺が話すのは、ある呪いの話だ。
 みんな、蟲毒は知っているか?
 蟲毒の作り方には諸説あるが、複数の動物を箱や甕などの密閉空間に入れ、それを地下に埋め、共喰いの果てに生き残った1匹を用いる、という大まかな流れは変わらない。
 箱に閉じ込められる動物を種類は、サソリ、ヘビ、ヤモリ、蝦蟇、ムカデ、クモなんかが一般的だ。共通点はみんな毒を持った生き物だというところか。
 互いの毒を喰らいあううちに、最高の強まった毒性が生き残りの一匹に宿り、人を呪うにはもってこいの生物が誕生するんだそうだ。
 だがな、実は毒性のない動物でも蟲毒は可能らしい。その場合は、殺されることや、喰われることへの怨念が積もり積もって、生き残った一体に強い呪いのパワーが宿るというわけだ」


「かつて、この学校のある男子生徒が蟲毒を試したいとい衝動に取り憑かれた。名を仮に君塚としておこう。
 君塚は充分に恵まれていたから、誰かを呪ったり自分を幸せにするために蟲毒を利用しようと考えていたわけではない。蟲毒という呪法に対する、漠然とした憧れや好奇心に取り憑かれたのさ」


 君塚は小さい頃から、自分より弱い生物が苦しむ様子を観察するのが好きだった。
 弱ったカマキリを蟻の大群に襲わせたり、蜘蛛の巣にかかった蝶が食われる様子を観察したり、そういう弱い生き物を見て自分が優越感を得ることだけが、唯一の心の慰めだった。
 そんな彼が、蟲毒という呪法が存在することを知り、それに執着したのは、必然ともいえた。
 自分の意思に反して、真っ暗な甕に閉じ込められ、飢餓に駆り立てられて互いを喰らい合う哀れな動物たち。そんな凄惨な状況を想像するだけで、彼は眠れないほど興奮した。
 その上、共喰いのたびに毒や恨みが勝利者の体内に蓄積されて、最終的には憎悪のいかたまりのような生物が完成する、という図式にも、美学を感じて止まなかった。
 そして、長い年月、そんな妄想を弄ぶうちに、自分の手で蟲毒を実現させてみたいという欲求に遂に勝てなくなった。
 しかし、君塚は虫などを集めるうちに実につまらない行為だということに気がついた。
 まず箱を地中に埋めて結果を待つ以上、呪法が成就される過程をその目で見ることができないことが不満だった。
 それに、うまいこと蟲毒の生物を誕生させたところで、昆虫や両生類の毒性や恨みなどたかが知れている。
 そして彼は、どうせなら高度で複雑な感情を持つ生物で蟲毒の実験を行い、その一部始終をこの目で見るべきだ、という妄念に取り憑かれてしまった。
 そんな生き物は、ひとつしか存在しない。そう、人間だ。
 君塚は、おそらく一度きりしか行うことができないであろう大切な実験のために、2年の歳月をかけて慎重に準備した。
 人を材料とした蟲毒を行おうと思い立ったのが、1年生の春。彼が目をつけた場所は、この学校の旧校舎だった。
 そして、彼は何度が下調べをしているうちに、人を閉じ込めるのに持ってこいの地下室を見つけた。
 そして、3年生の夏休み直前になって、それはようやく実行に移された。


 夏休みに入ったばかりの蒸し暑い日、君塚は学校に7人の生徒を呼び出した。
 集められたのは5人の男子生徒と、2人の女生徒。
 その日まで互いの顔すら知らなかった7人には、ある共通点があった。それは、根っから怖い話が好きだ、ということだ。
 君塚に百物語をするのにぴったりの場所があると誘われて、彼らは旧校舎へと向かった。


 君塚は旧校舎の階段の先にある地下室へと、7人を案内した。
 しかし、最後の一人が地下室への階段を降り切ったところで、背後で鉄製のドアがバタンと閉まり、無情な掛け金の音が地下室に響き渡った。
 「おい、君塚、なにやってんだよ!」
 「鍵がかかっている!」
 7人はあらゆる手段を試した後、ようやく逃げ場がないことに気づいた。
 改めて室内を見ると、むき出しのコンクリートが四方を固めているだけの、実にそっけない部屋だ。照明は天井の中央に裸電球がぽつんと点いているだけで、四隅が翳るくらいに頼りない。
 他にあるものといえば、部屋の隅にダンボールが一箱。壁が分厚いこと、ドアが頑丈なこと。
 脱出口にはならないものの、空気取りの穴が開いていることなどを確認した彼らは、藁にも縋る思いでダンボールを開けた。
 まず水。7人で分けると3日持つか持たないかの量だった。
 あとは、包丁、ナイフ、ボウガン、縄、アイスピック、ノコギリ、釘、トンカチ、鉄パイプ、毒入りのビン、鎌、カッター、ナックル、竹刀という武器の数々。
 その中の一人が細い釘を拾い上げ、階段を上がり、ドアの前にしゃがみこんだ。そして、鍵穴に釘を差し込み、ピッキングを試みた。
 「ぎゃ!!!」
 ヒステリックな絶叫をあげたかと思うと、体が不自然にのけぞり、痙攣しながら、階段を転げ落ちた。
 駆け寄った6人が見たのは、妙な角度に首がねじ曲がった男子生徒の姿だった。
 混乱を制するかのように、どこからともなく声が響いてきた。
 「鍵穴には電流が流れているんだ。触らない方がいい」
 それは、他ならぬ君塚の声だった。よく見れば、天井の一辺にスピーカーが供えつけられていて、声はそこから聞こえて来た。
 君塚は、人間を用いた蟲毒を思いつき、ここにいる人間で実践しているのだという、自分の野望を語って聞かせた。
 「蟲毒は憎悪を喰らいあって膨らませることで完成される呪法なのだから、君達には本気で殺し合ってもらわなくてはならない。
 誰か最後のひとりになるまでに、ドアを開けるつもりはない。様子は監視カメラとマイクで常に探っている。グッドラック」


 通信が切れそうになったので6人は一斉に騒ぎ立てたが、君塚は沈黙を通した。
 しかし、そのうちの一人が、口にした疑問に君塚は答えた。
 「なあ、どうして俺たちなんだ?」
 「蟲毒は毒や恨みなどの負のエネルギーを、互いに食わせることによって増幅させ、吸収させ、ひとつに集めることで完成される。
 ならば、人間でも同じく強い毒性を持つ者がいいだろう。だから君達を選んだんだ」
 「どういうことよ!」
 「君たちの共通点はな、犯罪者であることだ。万引きした者、カンニングした者、嘘ばかりついている者、親を欺いた者、親友を裏切った者、喧嘩で相手に重傷を負わせた者、恋人を死に追い込んだ者・・・」
 君塚はそう言うと、マイクを切った。


 君塚は6人の監視を行うため、地下室の上の教室に機材を持ち込んでいた。機材の一式は教卓の影にうまく隠し、配線も巧みに瓦礫になじませたので、深夜の見張りが懐中電灯でひと撫でしたくらいじゃ見つからない。
 マイクを切ったあとも、彼は興味深くモニターを見守っていた。


 最初の動揺から立ち直った6人は、必死に励まし合いながら、状況を打開する方法について話し合っていた。
 彼らの荷物は、君塚が引き入れる際にうまいことを言って、上の教室に置き去りにされていた。
 今彼らの手元に役に立ちそうな道具は何もないが、それでも彼らは諦めず、ドアに体当たりし、壁を叩き、空気取りの穴から大声で助けを求めていた。
 しかし、地下室のドアは分厚く、コンクリートの壁は厚く、彼を外界から完全に隔離している。空気取りの通路からも、外部に声は届かない。


 やがて自分たちの無力さを悟った6人は、観点を切替て、ここでの過ごし方についての検討を始めた。
 まず彼らは水を6等分して各自に配った。
 それから部屋を8等分にして、その中の6区画は各人のための空間、ひとつはトイレ、残ったひとつは武器庫兼、細田の死体置き場に割り当てた。
 部屋といって、仕切りなどはない。包丁で床に境界線を刻んだだけの、子供の陣地ごっこみたいなものだ。
 それぞれの部屋に収まった各人は、もう語る言葉もなくして膝を抱えた。
 長い沈黙の果てに、ぽつんとだ誰かが呟いた。
 「それにしても、なんで水なんて置いてあったんだろうね。
 だってさ、僕たちに殺し合ってほしいんなら、命を永らえさせるような道具は必要ないだろうに」
 何人かも黙ったまま俯いた。そう、中途半端に残された希望は、いさかいの種になるということに気づいてしまったのだ。
 もし、水を手に入れて3日生き延びることができるならば、4日目以降も生き残りたいを願う気持ちが強まるだろう。例え、他人を押しのけても・・・


 君塚は何も起きないので飽きてしまった。
 そして、監視をビデオ録画に任せて、旧校舎を抜け出して帰宅した。
 さらに方々に電話を掛け、今日閉じ込めた面々が帰宅しない理由をでっち上げることも忘れなかった。
 君塚は閉じ込めた連中の部活の先輩や担任の教師に成りすまして、「部活動で数日泊まり込む」「友達の家に厄介になる」とか、適当な理由を並べ立てた。


 次の日、朝になると君塚は急いで旧校舎に向かった。
 そして、旧校舎に着くと、教室で急いでモニターに見入った。そこには驚くべき光景が映し出されていた。
 閉じ込められた6人は、車座になって談笑していたのだ。
 だが、見ていくうちに君塚は次第に笑みを浮かべ始めた。談笑している彼らの様子は、演技をしているかのようにどこか不自然なのだ。
 「作り笑いか」
 君塚はモニターの前で頬杖をつきながら、成り行きを見守ることにした。
 皆、衣服も髪を乱れだして、目の下には青黒い隈がが絶望の影のように貼りついていた。
 室内の様子で変わったところといえば、武器を入れてあったダンボールが昨日トイレと決められた部屋の隅に移動させられたことぐらい。
 ダンボールの中に入っていた武器は、室内を8等分したうちのひとつ、死体置き場に放り出されていた。
 そう、あのダンボールに用を足すことにしたようだ。
 君塚はしばらく室内の茶番劇を見つめていたが、やがて立ち上がり、どこからか持ち出してきたラジカセをマイクの前にセットした。
 そこから流れ出たのは、当時人気のアイドルが歌うポップスで、スピーカーの音量を上げて、ガンガンに流した。
 6人は突然鳴り響いたアイドルソングを無視しようと努めたが、やがて限界に達した。
 それまで楽しげに笑い話をしていた一人の女の子は、耳を押さえて絶叫し始めた。
 それをきっかけに、他の奴を叫び始め、室内は狂乱に支配された。


 さらに君塚がモニターに注目してみると、一人の生徒の様子がおかしくなった。ある男子生徒が手足を投げだし、床の上で痙攣している。
 みんなが駆け寄って介抱すると、彼は苦しい息の下、必死に「自分のズボンのポットにある薬を飲ませてくれ」と訴えた。
 近くの女子生徒が、その男子生徒のポケットに手を入れた。
 「ないわ、そんなもの!」
 彼はまじまじと女子生徒の顔を見つめ、震える手を自分の左胸にあてがった。やがて、全身が弓なりになり、強張っていき、最後にガクリと力が抜けた。
 彼が息を引き取るまで、意外と時間がかかった。
 そうして、残りは5人になった。
 君塚はここで家に帰った。


 翌朝、旧校舎のモニターを覗くと、なんと2人もの死者が出ていた。
 男子生徒と女子生徒が一人ずつ。ふたつの死骸は、おそらく死亡時の状態のまま転がっていた。
 男子生徒は胸に刺さった包丁を抜きかけて息絶えたらしく、柄に手を絡ませ、苦悶の形相で空を睨んでいた。
 女子生徒もまた、だらしなく開いた口の端に泡を吹き、裏返った白目を血走らせて硬直していた。彼女のそばには飲みかけのペットボトルが倒れて水が零れていた。おそらく中毒死だ。
 残された3人は、男子生徒2人と女生徒1人。その空気には、昨日までは伺えなかった猜疑が満ちていて君塚を喜ばせた。
 「ねえ、どっちが殺したの」と女子生徒が問うと、
 「知らねぇよ。お前の悲鳴で目が覚めたら、こんなことになってたんだよ」
 「僕も同じです」
 そのあとには重苦しい沈黙が満ちた。


 「カタつけようぜ、もう」
 一人の男子生徒は立ち上がり、いつ飛び掛かってきてもおかしくないほど危険な雰囲気を放っていた。
 「二人は死んで、一人は自由だ。それが誰かを決めればいいだけだろ。さっさと解決しようぜ」
 男子生徒がポケットに突っ込んだ手を抜くと、いつの間に武器庫から調達してきたのか、ナックルが嵌められていた。
 「体格差とかあるからさ、ハンデはくれてやるぜ。
 刃物とかわんさかあったよなあ。お前ら好きなの選べよ」
 女子生徒はこの申し出に頷いたが、もう一人の男子生徒は「嫌です」と言った。
 「おめえ、なんて言った?」
 「僕にとって一番不愉快なのは、閉じ込めたヤツの思惑通りに、蟲毒が成されてしまうことです。ですから、殺し合いは断ります」
 「正気か、お前?」
 「あなたは悔しくないんですか?僕らをこんな目に遭わせたあいつの望む通りに行動して」
 なんて穏やかに言い張って、へらへら笑っていた。
 ナックル男はゾッとしたように拳を引っ込め、呟いた。
 「コイツ、狂ってやがる・・・」
 狂いはじめた男は、まだブツブツ呟いていた。
 「僕の感情は僕のものですよ。誰かにくわせるなんて、まっぴら、ごめんです」
 その時、事態を静観していた女子生徒が突然、きゃっと短い悲鳴を上げた。
 彼女の視線の先にあったのは、死体置き場に重ねられた二つの死体だった。いつの間にか現れたのか、死体に取り憑いて腐肉をかじっている数匹の鼠を見つけ、おののいていた。ナックル男は、狂人を解放し、死体に群がるネズミを追い払い始めた。
 何事もなかったかのように、口をつぐんで膝を抱える狂人。
 かじられた死体を見ないようにして、へたりこむ女子生徒。
 そして今日生じた2体の死体を死体置き場に片付け始めるナックル男。
 一通りのことが終わると、密室にはまた、長い停滞が待っていた。

 君塚はこの日は、旧校舎に泊まり込むことにした。
 一度家に帰り、母親が作ったハンバーグを食べ、夜食用に持たせてくれたサンドイッチを持参して、彼は夜の旧校舎に戻って来た。
 深夜の2時を回った頃、女子生徒の悲鳴が聞こえて、君塚は眠りから覚めた。
 急いで画面を見ると、狂人が倒れていて、他の2人が取りすがっていた。体を揺さぶっても反応がない。
 そのうち、女子生徒が、狂人の死体の傍らに転がるペットボトルを手に取った。
 「また毒で死んだってのか」
 「そうね、自殺だったみたい。ほら、見て」
 女子生徒はペットボトルにカッターで刻まれた狂人の遺書らしきものを見つけ、読み上げた。
 「ぼくはにんげんでいたい
 心をくわれることほどおそろしいことはない」
 狂人の死体を片付けた後、二人は部屋の対角に座り込み、ぼんやりと視線をさ迷わせていた。
 結局、これまで人が殺される決定的な瞬間を見逃し続けた君塚は、ここでどうしても生の殺し合いを目撃したかった。
 残った二人の体力も限界だろう。放っておくと、殺し合いをする前に衰弱死する可能性も出てくる。
 あれこれと頭を悩ませた挙句、彼はシンプルな解決方法を見つけた。
 君塚は、スピーカーのスイッチを入れ、彼らに話しかけた。
 「今、空気穴の出口を塞いだ。空気が切れる前に決着を付けろよ」
 ナックル男がふらつく足で面倒くさそうに立ち上がった。
 「なあ、どうする?」
 女子生徒は無言のまま、なんとか立ち上がり、おぼつかない足取りで足元に落ちていたカッターナイフを拾った。
 突然モニターの光が消えて、真っ暗で何も見えない。
 君塚は動転し、電源や配線を確認した。調べている最中も、ヘッドフォンからは悲鳴は物音が聞こえてきて、事態を把握できずにおいてゆかれることに焦った。
 混乱に震えながら歩き回るうちに閃いた。地下室の唯一の光源、裸電球が切れたんだろう。
 君塚は音を頼りに室内を探ろうと、ヘッドフォンを強く耳に押し付けた。
 ついさっきまで争う物音が聞こえて来た室内は静かだったが、かすかに呼吸音が聞こえる。
 君塚は、ついに蟲毒が完成したのだ、と確信した。
 すぐさま地下室に向かおう、として踏みとどまった。君塚はふと、今まで録画していたビデオの存在を思い出したのだ。


 さて、君塚はどうしたと思う?
  1. ビデオを確認した→日野7話目エンディング№30:かくれんぼ
  2. すぐに地下室に向かった
 結局、いても立ってもいられなくなって、君塚はすぐさま地下室に向かったんだ。電灯が消えていることを思い出して懐中電灯を握りしめたのが最後の理性だった。
 あとは、喜びをこらえきれずに奇声を上げながら、弾む足取りで廊下を駆け抜けた。
 長い年月をかかってこしらえた、自分だけの蟲毒なんだ!


 君塚はついに地下室の扉の前に行きついた。
 開錠し、ドアを開くと予想よりずっとおぞましい悪臭が吹き付けて来た。複数の人間が分泌した、垢、汗、糞尿。何よりも強いのは腐敗臭だ。
 その臭いに耐え切れず、君塚はまず吐いた。そして、めまいと戦いながら階段を降りた。懐中電灯で足元を照らし、一方でモップの柄を慎重に構えながら。


 「なあ、お前、生き残ったのはどちらだと思う?」
  1. わからない
 懐中電灯の丸い光に浮かび上がったのは、ナックル男の背中だった。
 彼は無言のまま少しうつむいて、ゆらゆらと左右に揺れていた。
 「おい、僕についてこい」
 君塚が命じると、その肩がピクリと震えた。
 先に立って階段へと歩き出すと、ついてくる気配がした。
 立ち姿の印象と同じく、生命感のない足音が、ひたりひたりと追いかけてくる。
 君塚がやや足早に地下室を出ようとした、その時だった。背後からぬっと突き出した両腕が、君塚の首に巻き付いた。
 「テメェは出さねぇ・・・」
 それはナックル男の声だった。押し殺した響きからは激しい怒りが・・・つまりは、まぎれもない正気が感じられた。
 背後の胸板や腕から漂うのは、蟲毒という響きにつきまとう神秘の空気などではなく、数日間拘束された生身の男の動物的な悪臭だ。
 「ふさけやがって・・・」
 腹を打つような低音で呟くと、ギリギリと君塚の喉を締め上げてきた。
 (ちゃんとやったのに、蟲毒は完成しなかった。生き残りは単なる人間に過ぎなかった。憧れ続けた蟲毒は偽物だった)


 「蟲毒そのものが実在するかどうかなんてわからないけどな、この一件には君塚自身も知らない、ある手落ちがあったんだ。
 ちゃんとやればナックル男が蟲毒になったはずなのに、ある歯車が狂ったせいで、全体がうまくいかなくなったってわけさ。
 そのヒントは、君塚が確認しなかったビデオの中にちゃんと収められていた。
 7人閉じ込められて、6人死亡したわけだが、その流れをもう一度追ってみよう」


 まず1人目。
 これは君塚が調整を怠った電流が原因で階段を転げ落ちて死亡。一言で表すなら事故死。
 元はといえば、君塚が電流を強くしすぎたせいなのだから、君塚の手で殺されたといってもいい。
 2人目は大音響で場違いなアイドルソングを聞かされたせいで、持病の心臓発作を起こしてショック死した。
 これも1人目と同じく、君塚の悪意で死んだといえなくもない。
 そして3人目。胸を刺されて死んだ男子生徒。
 彼は、武器庫から包丁を盗み出し、それを自分の部屋に持ち替える際に、寝返りを打った者の足に引っかかってこけた。それで、運悪く自分の胸にブスリ。一言でいえば事故。
 
 4人目は青酸カリの毒物により中毒死した女子生徒。
 ペットボトルに毒を仕込んだのは、実は彼女自身だった。
 頃合いを見て他の者のペットボトルと交換するつもりだったんだろうが、間違えて自分で飲んでしまったんだよ。
 5人目は、狂人の服毒死。これは間違いなく自殺だ。
 そして、6人目の女子生徒は、追い詰められて自殺したのさ。
 ナックル男に首を絞められ、苦しみもがく君塚の視界に飛び込んでくる位置に、彼女は倒れていた。


 君塚が落とした懐中電灯の光が、投げ出された彼女の血塗れの右手首と、反対の手に握られていた自傷の凶器であるカッターナイフを照らし出した。
 「この女、俺に勝ち目がないって思ったのか、最初からこうするつもりだったのかは知らねぇけどよ」
 「うぅ、ぐぐぐ・・・」
 「おい、まだ死ぬんじゃねーぞ。簡単に死なれたら、俺たちの恨みはどうなる?もっと苦しんで、苦しんでから死ねよ。な?」
 ナックル男はありったけの呪詛をこめて囁いた。
 君塚は彼の望み通り、白目を剥いたり泡を吹いたりしながら、苦しんだあげくに絶命した。


 「さて、種明かしだ。
 君塚の蟲毒の生成過程に何の手違いがあったかというと、要するにそれは誰一人殺し合っていないという点につきる。互いに殺して喰らい合わなければ恨みは蓄積しないのだからな。
 それに恨みが向かうとするなら、君塚にであって、室内の被害者仲間にではない。
 蟲毒というのは、再三言うが、憎悪や恨みを食い合って成長する呪法。言い換えれば、喰われる者から喰う者へと流れ込んでいく負のエネルギーそのものが毒なんだからな。
 このような偶然が続いてしまった地下室では、育つべき、膨れ上がるべく毒の萌芽そのものが生まれなかったんだ・・・だから君塚は報いを受けた。
 問題は、絞められたあげくに首の骨をへし折られた君塚が、本当の意味で死にきれなかった、ということだ。
 悔しさとあの地下室に立ち込めていた妙な空気のせいもあったのかもな。
 君塚が悔しかったのは、殺されたことじゃない。地下室に閉じ込めた人形どもがマヌケだったせいで、蟲毒がちゃんと完成しなかったことだ。
 まったくありゃあ残念だった・・・
 というわけで、実験はやり直しだ」


 坂上は日野の声が聞き取りにくくなっていった・・・
 そして、自分がいるのがいつもの部室ではないことに気づいた。
 薄暗く、蒸れた空気が立ち込めていて、物凄い悪臭がする。
 (息苦しい・・・窓を開けよう。
 あれ?窓がない。
 仕方がない、ドアを開けよう。
 ・・・おかしいな、ドアが開かない。
 ん?右手に釘を持っている。)
 坂上はしゃがみこんでピッキングを試みたが、手から激痛が走り、階段を滑って背中から宙に舞った。
 (あ、首の骨、折れるかもしれない・・・
 痛い、痛い、痛い。
 これから何をすればいいだろう?)
 坂上の耳に日野の声が響き渡る。
 「さあ、今度こそ、喰らい合ってくれよ」
 
 日野7話目エンディング№31:蟲毒の地下室
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